再発防止を目指す「画期的な」個別化がんワクチン、イギリスで臨床試験開始
Cancer Vaccine Hailed as 'Game-changer'
(写真はイメージです) Iván Díaz-Unsplash
<英国で個別化がんワクチンの臨床試験が開始され、再発防止に革新がもたらされるか注目されている>
個々の患者に合わせたがん再発予防ワクチンを接種する臨床試験がイギリスで始まっている。
この「画期的な」ワクチンは免疫療法の一種で、体の免疫を活性化させ、腫瘍細胞を見つけて攻撃することで再発の可能性を低減する。
インフルエンザや新型コロナウイルスといった疾患の発症を防ぐワクチンと異なり、こうしたがんのワクチンは、既にがんにかかっている患者を対象とする。
臨床試験はイングランドにある国民医療サービス(NHS)の複数の施設で実施され、まずは大腸がん、膵臓がん、皮膚がん、肺がん、膀胱がん、腎臓がんの患者を対象とする。臨床試験で使用するワクチンはバイオテック企業のビオンテックが製造する。
NHSの発表の中で、英国がん研究基金の研究イノベーション担当エグゼクティブディレクター、イアン・フォルクスは「イングランドで患者が個人に合わせた腸がんワクチンを利用できるようになったことは非常にエキサイティング」とコメントしている。
「この先駆的な技術では、mRNAワクチンを使って人の免疫の感度を高め、最も早い段階でがんを検出して標的とする。こうした臨床試験は、より多くの人を助けて長生きしてもらい、生活を向上させ、がんの恐怖から解放するうえで欠かせない。もし成功すれば、このワクチンは腸がんの発病や再発を予防する画期的な転換点となる」(フォルクス)
天然痘のような疾患に対するワクチンは、体の免疫を鍛え、ウイルスや細菌など特定の病原体を認識して戦わせることで発症を予防する。こうしたワクチンにはその病原体の無害な部分(タンパク質、死んだり弱体化したりした病原体、遺伝物質の一部など)が含まれており、免疫がこれを異物として認識し、抗体を作り出すことで反応する。
続いて免疫は、病原体を「記憶」してそうした抗体を素早く作り出せる記憶細胞を生成する。これは体内に長期間残る。その後、本物の病原体が体に侵入した場合、免疫がすぐに認識して記憶細胞と抗体を使って攻撃し、発症を予防したり、重症化を防いだりする。
がんワクチンは患者のがんや腫瘍を分析し、がん細胞のマーカーを含む専用ワクチンを作り出す仕組みをもつ。感染症のワクチンと同じように、免疫を学習させてそのマーカー(抗原と呼ばれる)を認識させ、それを持つ細胞、つまりがん細胞との戦いに備える。
「こうしたワクチンは、がん細胞を認識して破壊するよう、患者の免疫を教育する。ワクチンは個々の患者のがん細胞が発現する分子に合わせて調整される(それが『パーソナライズ』と呼ばれる理由)。この設計によって治療効率が高まるだろう」。英オープン大学のがん薬理学教授、フランチェスコ・クレアは本誌にそう語った。