最新記事
気候変動

気候不安症に揺れる若者たち...映画「アニマル」が描く希望の旅

2024年6月7日(金)17時00分
岩井光子(ライター)

「種の絶滅」は人のせいなのか?

「アニマル」のテーマは種の絶滅だ。WWF(世界自然保護基金)の報告によると、1970年から2018年の間に地球上の脊椎動物の個体群は平均で69%減少したという。世界の科学者が「6度目の大量絶滅」と呼ぶ危機の原因は、気候変動、侵略的外来種、環境汚染、乱獲、生息環境の破壊の5つといわれている。

ディオンは2人を連れて、これらの課題解決に取り組む学者やジャーナリスト、政治家、畜産農家、パーマカルチャー実践者らの元を訪れた。2人は彼らの言葉を吸収し、時に作業を手伝って汗を流し、自然の中で感性を研ぎ澄ました。

2人が現場を「体験」して実感したのは、問題の複雑さだ。フランスのウサギ農場では集約畜産が経済システムと連動した構造的な問題であることを知り、スイスではオオカミと家畜の羊の共生方法を探る男性と出会う。また、ベルギーの昆虫学者からは、セイヨウミツバチ以外の野生のハチが1万数千種もいることを学んだ。生態系は人も含め、生物間の繊細なバランスによって保たれているという実感は、2人の希望の糸口にもなっていく。

newsweekjp_20240606123130.jpeg

ウサギ農場を訪れたヴィプラン・プハネスワラン(中)とベラ・ラック(右) ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma - 2021

当初、人の存在が悪ではないかと苦しんでいたベラが「この旅で私は動物のことを学ぼうと思ったけど、人について多くを学んだ」と話すシーンが印象的だ。

不安克服のためのアクション

国際生物多様性の日である5月22日、日比谷コンベンションホールで開かれた同作の特別試写会シンポジウムには、配給会社のユナイテッドピープルが学生50人を招待した。

上映後に解説者として登壇したWWFジャパン自然保護室長の山岸尚之さんは、「主人公の2人がどう行動したら良いかを悩みながら考えていくところに共感した。生物多様性の問題は複雑。解決策はXのリポストやインスタグラムの中に都合良く転がっているわけではない。さまざまな人と対話しながら社会の複雑な関係性の中で一生懸命探していくしかない」と話した。

newsweekjp_20240606124518.jpg

WWFジャパン自然保護室長の山岸尚之さん

その後の活動発表では、小学生から20代の社会人まで8人が登壇し、それぞれ素朴な疑問や関心領域からプラごみ削減などの行動を起こした経緯を語り、会場の学生たちに自らのグループへの参加を呼びかけた。

日本でルーツ&シューツを広めるために設立された団体、NPO法人ジェーン・グドール・インスティテュート・ジャパンの大庭美菜さんや、2021年に日本で初めてルーツ&シューツに登録したボランティアグループを立ち上げ、現在日本の同活動のリーダーも務める高校生のRenaさん、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会で若手の活動を支援する稲場一華さんも登壇した。上映後は参加した学生と登壇者が立ち話をする姿があちこちで見られた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中