最新記事
イラン

「テヘランの虐殺者」ライシ大統領の死を祝い、命を奪われた反体制派に想いを馳せるイラン人<動画付き>

Iran President Raisi's critics celebrate his death

2024年5月21日(火)20時58分
ジョーダン・キング

事故死したライシ大統領の葬儀に集まった人々(5月21日) 東アゼルバイジャン州タブリーズ Mehrvarz Ahmadi/dpa via Reuters Connect

<2022年に起きた反政府デモの激しい弾圧で知られたライシ大統領の手は血で汚れていた>

イランのイブラヒム・ライシ大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡したことが確認されたのを受けて、ソーシャルメディア上にはライシの死を喜ぶ声を投稿している人々がいる。

保守強硬派でイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の後継者候補と目されてきたライシは、搭乗していたヘリコプターが5月19日に隣国アゼルバイジャンとの国境近くで墜落。イラン国営メディアとモフセン・マンスーリ副大統領がライシの死亡を確認した。墜落したヘリコプターには、ライシのほかにホセイン・アミール・アブドラヒアン外相らも乗っており、あわせて8人が死亡した。

 

悪天候のなか夜間の捜索・救助活動は難航し、翌20日に9人の遺体が発見された。犠牲者はいずれもイラン北部のタブリーズに運ばれる予定だ。

イラン政府は声明を出し、ライシは「勤勉で精力的」な人物であり「国のために命を捧げた」と称賛。さらに、ライシを失っても政権の運営には「いささかの問題もない」と強調した。

だがライシは検察官だった1980年代後半(イラン・イラク戦争の後)に何千人もの政治犯の処刑に関与したとされ、「テヘランの虐殺者」の異名を持つ。陰でその死を喜ぶ者は少なくない。

【動画】抗議者を殴る蹴る、バイクでひく、発砲する...イラン警察の残忍な暴行の現場

「女性・命・自由」デモの参加者らが喜びの舞い

国際的な人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は以前に、当時少なくとも32都市で2800~5000人の政治犯が殺害されたという推定を公表。報告書で「イブラヒム・ライシ大統領を含むイランの現高官と元高官を処刑と結びつける証拠がある」と述べていた。

イランのジャーナリスト兼活動家のマシ・アリネジャドはX(旧ツイッター)への投稿でこのことに言及。「イラン国民の間でテヘランの虐殺者として知られるイブラヒム・ライシ大統領が死亡した!ヘリコプターが墜落したのだ」と書き込み、ライシの死を喜んで踊っている女性たちの動画も共有した。これらの女性の多くは、2022年9月にイランで「女性・命・自由」のスローガンの下に展開された反政府デモに参加していた。

イラン政府は2022年、服装に関する規定を強化。取り締まりが強化されるなか、少数派民族であるクルド系のマフサ・アミニ(22)が規定に違反したとして「道徳」警察に身柄を拘束され、警察の勾留施設で倒れて3日後に死亡した。

彼女の死を受けて、大規模な抗議デモが発生。イラン当局はデモ隊に向けて実弾や催涙ガスを発射したり、複数のデモ参加者の身柄を拘束したりするなど強硬な対応を取った。

国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは2023年9月に発表した概要の中で、「(イランの)治安部隊は子どもを含む何百人ものデモ参加者を違法に殺害」し、「デモ参加者に向けて金属製のペレット弾を撃って失明」させ、「独断的に何万人もの人々の身柄を拘束」して「さまざまな拷問を行った」と述べた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ石油・ガス購入国に25%の関税、4月2日

ビジネス

中国、米アップル「投資拡大を歓迎」 商務相がクック

ビジネス

米総合PMI、3月は53.5に上昇 サービス業改善

ワールド

米、自動車関税4月2日見送りも 相互関税は予定通り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 7
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 8
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 9
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 10
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中