最新記事
中国

習近平はなぜ長期政権を目指すのか...中国共産党「非公開内部資料」から読み解けること

2024年5月28日(火)14時45分
大熊雄一郎 (共同通信社記者)

共産党は自由な発信の場となる可能性があったネット空間を裏切り者をあぶり出し、摘発する手段へと変えた。

人工知能(AI)やビッグデータといった最新技術を駆使して約14億人の国民の言動を監視、コントロールし、共産党の一党支配を半永久的に持続させる構想だ。「デジタル独裁」の権力乱用に懸念が強まる。


 

「あなたの行動はすべて把握していた」。私が2018年に新疆ウイグル自治区西部のカシュガル地区を訪問すると、公安当局が取り囲み行動を阻止した。流ちょうな英語を話すウイグル族の警察官は、監視カメラ映像や携帯電話の通信記録を基に追跡したと誇らしげに話した。

中国政府はウイグル族など少数民族が多く住む同自治区で「AI統治」を全国に先駆けて導入した。

2017年には、区都ウルムチ市にビッグデータを活用した治安維持を推進する「国家工程実験室」を設立。公安省、学術機関などが連携して「ビッグデータによる立体的な治安と防犯システムを構築する」(実験室主任)ための拠点だ。

同自治区では至る所に監視カメラや顔認証の機器が置かれ、当局はSNSのやりとりも監視。地元の男性は「当局の悪口を書き込んだら数分以内に警察が来る」と話した。習指導部は新型コロナウイルス流行をきっかけにこうした統治を全国に広げた。

政府は企業とも連携を深めている。テンセント、電子商取引(EC)最大手のアリババグループ、音声認識技術大手の科大訊飛など、党に忠実な企業を支援。企業側は膨大な量の個人情報を当局の求めに応じて提出しているとみられている。

微信や電子決済の利用者は、知らないうちに通話や購入の記録、資産運用などの情報が国に吸い取られる可能性を常に抱えている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、中国政府が国民の生体認証のデータベースを構築するため企業を通じて個人の音声認証データを集めているとして「歯止めなき監視」に懸念を示す。

強大な監視網を構築した結果、新疆ウイグル自治区では拘束者が急増。当局による個人情報の収集、保存、利用を監視する法律やメディアは事実上存在しない。


大熊雄一郎(おおくま・ゆういちろう)
共同通信社記者。2009年共同通信社入社。社会部、外信部を経て11年〜15年、中国総局で反日デモや党幹部失脚、香港「雨傘運動」などを取材。17年再度中国総局に赴任し米中貿易摩擦、香港大規模デモ、武漢新型コロナ流行、中国共産党結党100年、北京冬季五輪等を取材。第20回党大会を巡るスクープなどが国際報道に貢献したとされ、「ボーン・上田記念国際記者賞」(2022年)を受賞。


>独裁が生まれた日


 『独裁が生まれた日
 大熊雄一郎[著]
 白水社[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中