最新記事
中国

年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

2024年5月12日(日)16時22分
ロイター

そうした60歳超の労働者の3分の1は農村からの出稼ぎ勢で、専門的な技能を持っていない。

彼らのために中国がもっと強固なセイフティーネット(安全網)を整備できなかった一番の理由は、経済が「中所得国のわな」に陥るのを恐れた政策担当者が、パイの共有よりもパイ自体を膨らませることを優先し、資源配分にゆがみが生じた結果だ、と政府アドバイザーの一人はロイターに解説した。

ひたすら成長しようとする中国は、経済的資源や金融機関の資金を「新たな生産力」に振り向けている。つまり目下の習近平政権の下でも追求されているのは、グリーンエネルギーや高性能半導体、量子技術などの先端産業における技術革新と発展だ。

米欧当局者は、この政策が中国の生産者と競合する西側企業にとって不公平だと主張。これが貿易摩擦を引き起こし、中国の家計から資源が奪われ、中国国内の消費が抑制されて潜在成長力も低下していると指摘している。

中国はこうした見方を拒否し、繁栄に進む道として消費ではなく、生産の引き上げに重点を置いている。

先のアドバイザーは、こうした資源配分のゆがみがまず是正できていれば、安全網の拡充を含めた格差問題の解決はもっと簡単だっただろうとの見方を示した。

<戸籍で格差>

中国の年金制度は「戸口(戸籍制度)」が基礎になっており、都市戸籍と農村戸籍の取得者で支給額や社会福祉サービスに大きな差が生まれている。

例えば、都市戸籍の年金月額は、それほど発展していない省でも毎月約3000元、北京や上海なら約6000元となっている。

これに対し、1億7000万人に達する農村戸籍の年金月額は、今年3月に政府が最低支給額を引き上げても、ようやく20元から123元になったに過ぎない。

野村のエコノミストチームは、最貧困世帯に資源を回すことこそが国内消費を押し上げる最も効率的な措置だと提言する。

ところが、農村戸籍向けの年金引き上げ額は、国内総生産(GDP)の0.001%弱という規模にとどまっている。

<家族にも頼れず>

中国社会科学院の調査によると、公的医療予算の配分でも都市戸籍の労働者が受ける水準が農村戸籍の約4倍に上るケースがある。

ハンセン銀行のチーフ中国エコノミスト、ダン・ワン氏は、貧困に沈もうとする人々の問題を解決するための十分な社会福祉サービスが存在しないと批判した。

社会科学院のエコノミストで人民銀行アドバイザーを務めたカイ・ファン氏が執筆した論文からは、農村部では60歳超の住民の16%余りが「不健康」で、都市部の9.9%よりずっと多い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中