年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち
中国陝西省西安の路上で30年にわたって路上で自家製パンを販売していた67歳のフー・デジさんは、できることならそろそろ楽な生活を送りたかった。写真は4月、北京のショッピングモールで清掃業務に従事するフーさん(2024年 ロイター/Tingshu Wang)
中国陝西省西安の路上で30年にわたって路上で自家製パンを販売していた67歳のフー・デジさんは、できることならそろそろ楽な生活を送りたかった。
ところが、実際には今、年上の妻とともに北京の外れまで出向いて午前4時から毎日、弁当調理の仕事をこなした後、1時間以上かけて市内中心部のショッピングモールに移動。13時間も清掃業務に従事している。そこでの収入は毎月4000元(552ドル)だ。
フーさん夫妻や、この先10年で退職年齢に達する農村からの出稼ぎ労働者1億人の多くにとって、こうした激務が嫌ならば田舎に戻り、小さな畑と毎月たった123元(17ドル)の年金で暮らすしかない。
モップがけをしながら取材に応じてくれたフーさんは「誰も私たちの面倒を見られない。二人の子どもに負担はかけたくないし、国は(少額の年金以外)ビタ一文も恵んでくれない」と明かした。
フーさんたちは、前世紀末に農村から都市に大挙やってきてインフラ建設や工場労働に携わって中国を世界最大の輸出国にした世代だ。だが、人生の終盤になって生活水準が大幅に低下するリスクにさらされている。
ロイターが出稼ぎ労働者や人口統計学者、エコノミスト、政府アドバイザーら十数人に話を聞いたところでは、中国の社会保障制度は悪化する一方の少子高齢化に適応できなくなっていることが分かる。
産業近代化を通じた成長を追い求めようとしてきた政府は、この制度を抜本的に見直さないまま、場当たり的な対策しか講じてこなかった。同時に社会保障サービスの需要は、高齢化の進展とともに急拡大しつつある。
人口統計学者でウィスコンシン大学マディソン校のシニアサイエンティストを務めるフージャン・イー氏は「中国の高齢者は長く惨めな生活を送ることになる。故郷に戻る出稼ぎ労働者が次々に増えており、一部は生き延びるために低賃金で働いている」と指摘した。
これらの出稼ぎ労働者が引退して基本的な年金だけに頼ろうとすると、世界銀行が定める1日当たり3.65ドルという貧困ライン未満での生活を強いられる。そのため多くの人は都市で引き続き働いたり、家の畑で収穫した農産物を売ったりして生計の足しにしているのだ。
中央政府の関係各省庁からは、この問題についてのコメント要請に回答がなかった。
中国の最新統計によると、2022年時点で全労働力人口7億3400万人のうち、約9400万人は60歳を超えており、その比率は20年の8.8%から12.8%に高まった。
まだ、日本や韓国を下回っているが、今後10年間でさらに3億人が60代に突入するため、労働力人口に占める比率は跳ね上がるだろう。