最新記事
韓国

日本の「慰安婦拠出金」、5年半たっても残金処理できず宙ぶらりん状態

2024年5月14日(火)18時10分
佐々木和義
5月14日ソウル日本大使館前で「日本は、歴史の歪曲、企業の略奪をやめよ」と抗議する人々

5月14日ソウル日本大使館前で「日本は、歴史の歪曲、企業の略奪をやめよ」と抗議する人々...... Chris Jung/NurPhoto

<2015年の日韓慰安婦合意にもとづいて日本政府が10億円を拠出して設立後、文在寅前政権が解散させた「和解・癒やし財団」の残金が5年半たっても宙に浮いている......>

2015年の日韓慰安婦合意にもとづいて日本政府が10億円を拠出し、韓国政府が解散させた「和解・癒やし財団」の残余財産が処理されることなく問題になっている。

文在寅前政権が財団を解散させたとき、所管官庁の女性家族部は残金56億ウォンの処理には1年かからないと述べたが、5年半経過したいまだに完了することはなく、預金利息がついて59億4000万ウォンに膨れ上がっている。「具体的な処理については日韓の協議が必要」で「外交部と協議を続けている」というが、協議等の動きはなく職務放棄という声が上がっている。

18年、文在寅政権が「和解・癒し財団」を解散

2015年12月28日、当時の岸田文雄外務大臣と尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外交部長官が外相会談を行って、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決することで合意した。

日本政府は内閣総理大臣が心からのお詫びを表明し、韓国政府が設立する支援財団に10億円を拠出する。韓国政府は在韓日本大使館前の慰安婦像が適切に解決されるよう努力する。両政府は以後、国際社会で慰安婦問題に関する非難や批判を控えるという内容だ。

2016年7月28日、韓国政府が合意にもとづいて「和解・癒やし財団」を設立すると日本政府は10億円を送金した。韓国政府は同9月1日、着金を確認したと発表した。財団は存命だった元慰安婦46人に1人あたり約1億ウォン、遺族199人に約2000万ウォンずつ支給する方針を決めたが、慰安婦関連団体の正義記憶連帯(正義連)と元慰安婦が入所するナヌムの家などが妨害。元慰安婦34人と遺族58人に合わせて44億ウォンを支給した。

18年11月、文在寅政権が和解・癒し財団を解散させると述べ、19年7月、解散手続きを完了させた。慰安婦合意の見直しを公約に掲げた文在寅前大統領は10億円を日本に返すと述べたが、日本政府が見直しを拒絶し、さらには送金しても受け取らないと表明、解散に強く抗議した。

日本政府が10億円を拠出したとき、日本はもとより韓国内でもいずれ韓国政府が合意を破棄するだろうという声が出た。韓国は政権が変わると前政権の政策や日本などと交わした約束事を反故にするケースが少なくない。1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が交わした日韓共同宣言は事実上、無効化されている。

米オバマ大統領が日韓関係改善に尽力

日本と韓国が慰安婦問題で合意した15年当時、日韓両国の軋轢は世界中に知られていた。険悪な関係を懸念した米オバマ大統領が14年3月、オランダ・ハーグの米国大使公邸に安倍晋三首相と朴槿恵大統領を招待して日米韓首脳会談を主催したが関係修復には至らなかった。オバマ大統領は15年10月にホワイトハウスで朴槿恵大統領と会談し、また11月に出張先のマレーシアで安倍晋三元首相と会談を行った際にも関係改善を促した。米大統領の意向を受けた両首脳は日中韓サミットを開催したソウルで二国間首脳会談を行い、未来志向の関係を築いていくことで合意した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア産原油の制裁解除、道のり長い=スイス石油4商

ビジネス

海外動向など「不確実性高い」、物価に上下のリスク=

ワールド

中国の秘密ネットワーク、解雇された米政府職員に採用

ビジネス

米、輸出制限リストに80団体追加 中国インスパー子
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 8
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中