最新記事
韓国

日本の「慰安婦拠出金」、5年半たっても残金処理できず宙ぶらりん状態

2024年5月14日(火)18時10分
佐々木和義

韓国がオバマ大統領の尽力の所産ともいえる合意を一方的に破棄すれば、米国はじめ各国が「韓国は約束を守らない国」だと認識することになる。

日本が拠出した10億円は直接的には元慰安婦への見舞金だが、韓国の国際的な信用を担保する意味合いも大きい。仮に日本が返還金を受け取れば約束を守らない国を容認することになりかねない。

日本は合意破棄をある程度想定できたが、韓国は米国に加えて北朝鮮や中国からの信用も失った。北朝鮮は以降、親北政権の交渉に応じることはなく、20年には南北事務所を爆破した。中国の習近平主席も文在寅大統領の訪韓要請に応えることはなかった。

慰安婦合意を批判した人たちのその後は......

現在、慰安婦合意を批判した人たちは見る影もない。支給を妨害した「ナヌムの家」の当時の所長は不正が明るみに出て実刑が確定した。正義連の尹美香前代表も同様だ。20年の総選挙で国会入りを果たしたが、横領などの容疑で有罪判決を受けている。24年4月の総選挙に出馬しなかったが、話題になることはなかった。仮に出馬して再選できても任期中に上告審で有罪が確定すれば失職は免れない。

文在寅前大統領も表に出ることはない。23年5月に封切られたドキュメンタリー映画「文在寅です」の観客動員数は10万人。公開10日で100万人を突破した映画「盧武鉉です」とは対照的で、タマネギ男こと曺国を描いたドキュメンタリー映画「君がチョ・グク」の30万人にも及ばない。

「和解・癒やし財団」の残金処理は日本政府の承認が必須である。韓国は10億円を返還する案や別の関連事業に使う案などを提示したが、日本は返金を再度拒絶し、また本来の目的以外は認められないと回答した。

市民団体や学界は返還や慰安婦支援事業への投入など早急な処理を求め、ある法学教授は財団を元に戻して事業を継続することが日本への礼儀だと主張する。官民学のいずれを見ても拠出の前提にあった慰安婦問題の解決がおざなりになっている。

20240910issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月10日号(9月3日発売)は「日本政治が変わる日」特集。派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:FRB当局者、利下げの準備はできていると

ワールド

米共和党のチェイニー元副大統領、ハリス氏投票を表明

ワールド

アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジ

ワールド

アングル:中国にのしかかる「肥満問題」、経済低迷で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...「アフリカの女性たちを小道具として利用」「無神経」
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中