アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と呼んだ...現在も続く科学者「魔女狩り」の悲劇
OPPENHEIMER TRAGEDY
クリストファー・ノーラン監督がオッペンハイマーの複雑なレガシーを描いた素晴らしい映画は、私たちの存亡に関わる大量破壊兵器との関係だけでなく、知識人としての科学者が社会に必要であることについても、国を挙げた議論をするきっかけになってほしい。
トランプ、そしてパンデミック
悲しいことに、オッペンハイマーの人生の物語は、現在のアメリカの政治的窮状と関連がある。オッペンハイマーは、無知で反知性的で外国人嫌いの大衆扇動を特徴とする政治運動によって破滅に追いやられた。当時の魔女狩りは、ある種の偏執狂的なスタイルを持つ現代の政治家の直接の祖先だ。
例えば、オッペンハイマーを議会に召喚しようとしたジョセフ・マッカーシー上院議員の主任弁護士、ロイ・コーン。そう、ドナルド・トランプ前大統領に無作法で血迷った政治スタイルを教えた、あのロイ・コーンだ。パンデミックや気候変動をめぐる前大統領のファクトを無視した発言を思い出してほしい。得意げに科学をないがしろにする世界観だ。
アメリカで最も著名な科学者が偽りの嫌疑をかけられて屈辱を受けた事件は、全ての科学者にとって、知識人として政治に関わってはならないという警告になった。これがオッペンハイマーの本当の悲劇である。科学理論について率直に議論するという、現代社会の基本的な能力にまでダメージを与えたのだ。
あまりにも多くのアメリカ人がいまだに科学者に不信感を抱き、科学的探求、つまり、実験によってあらゆる理論を事実と照らし合わせて検証するという試行錯誤の本質を理解していない。最近のパンデミックの際の、公衆衛生の官僚や彼らに対する社会の反応もそうだった。
私たちは、AI(人工知能)が生活や働き方を一変させるという新たな技術革命の入り口に立っている。それにもかかわらず、AIの規制に関する賢明な政策決定に役立つような、革新の担い手と市民の対話は行われていない。こんにちの政治家は、サム・アルトマンのような技術革新者やキップ・ソーンやミチオ・カクのような理論物理学者の意見に、もっと耳を傾ける必要がある。