北朝鮮サイバー部隊、AI活用しフェイク画像や文章を作成...世界中の選挙プロセスを不安定化させるリスク
仁川空港に設置された投票所で期日前投票を行う有権者(4月5日) KIM SOO-HYEONーREUTERS
<韓国でサイバー攻撃と情報工作が成功すれば、他の民主主義国に対する同種の作戦の手本となり得る>
韓国の首都ソウルで3月18~20日に開催された第3回「民主主義サミット」は、偽情報やフェイクニュース、デジタルの脅威が主要テーマだった。2024年は世界中で数多くの選挙が実施されるだけに、その意義は大きい。
このイベントで世界の指導者たちが表明した懸念はとっぴなものではない。AI(人工知能)とディープフェイク技術の高度化は民主主義プロセスに重大な課題を突き付けている。
これらのテクノロジーは、完全な捏造だが極めて説得力のある音声や映像コンテンツの作成・拡散を可能にする。それに起因する誤情報や偽情報は国民の信頼を損ない、選挙結果に影響を与えかねない。
スロバキアでは23年9月の議会選挙前の数日間、欧州議会副議長のミハル・シメチカが不正選挙について議論しているとされるAI生成のディープフェイク音声ファイルがSNS上に拡散した。
オーストラリアでは19年の総選挙前に連邦議会と主要3政党を標的にしたサイバー攻撃が発生した。ロイター通信の報道によると、オーストラリアの情報機関は中国国家安全省の支援を受けた攻撃だったと結論付けた。
先進的なデジタル・インフラで知られる韓国も例外ではない。4月10日に総選挙を控える韓国にとって、北朝鮮のサイバー攻撃への対処は重要課題だ。北朝鮮は以前から、「社会の攪乱、心理戦、扇動」を韓国の選挙結果に影響を与える手段に用いてきた。
北朝鮮国防委員会偵察総局の元幹部で脱北者のキム・ククソン(仮名)は、12年の大統領選当時のサイバー作戦に関与したと告白した。キムによると、北朝鮮のサイバー部隊は保守派の朴槿恵(パク・クネ)候補と中道派の安哲秀(アン・チョルス)候補への批判を政治ニュースのコメント欄に投稿する世論操作工作を行ったという。有権者を北朝鮮に有利と思われる候補者に向かわせ、韓国政治の内部分裂を悪化させるのが狙いだった。
工作は現在も続いている。韓国国家情報院は、選挙期間中に高度なデジタル技術を使った誤情報のリスクが高まっていると警告した。同院の当局者は、北朝鮮系のハッカーがAIによる偽の画像や文書の作成を始め、政治不安や混乱をあおっているとの懸念を示している。