最新記事
AIの脅威

北朝鮮サイバー部隊、AI活用しフェイク画像や文章を作成...世界中の選挙プロセスを不安定化させるリスク

2024年4月9日(火)12時00分
チャン・モク
仁川空港に設置された投票所で期日前投票を行う有権者(4月5日) KIM SOO-HYEONーREUTERS

仁川空港に設置された投票所で期日前投票を行う有権者(4月5日) KIM SOO-HYEONーREUTERS

<韓国でサイバー攻撃と情報工作が成功すれば、他の民主主義国に対する同種の作戦の手本となり得る>

韓国の首都ソウルで3月18~20日に開催された第3回「民主主義サミット」は、偽情報やフェイクニュース、デジタルの脅威が主要テーマだった。2024年は世界中で数多くの選挙が実施されるだけに、その意義は大きい。

このイベントで世界の指導者たちが表明した懸念はとっぴなものではない。AI(人工知能)とディープフェイク技術の高度化は民主主義プロセスに重大な課題を突き付けている。

これらのテクノロジーは、完全な捏造だが極めて説得力のある音声や映像コンテンツの作成・拡散を可能にする。それに起因する誤情報や偽情報は国民の信頼を損ない、選挙結果に影響を与えかねない。

スロバキアでは23年9月の議会選挙前の数日間、欧州議会副議長のミハル・シメチカが不正選挙について議論しているとされるAI生成のディープフェイク音声ファイルがSNS上に拡散した。

オーストラリアでは19年の総選挙前に連邦議会と主要3政党を標的にしたサイバー攻撃が発生した。ロイター通信の報道によると、オーストラリアの情報機関は中国国家安全省の支援を受けた攻撃だったと結論付けた。

先進的なデジタル・インフラで知られる韓国も例外ではない。4月10日に総選挙を控える韓国にとって、北朝鮮のサイバー攻撃への対処は重要課題だ。北朝鮮は以前から、「社会の攪乱、心理戦、扇動」を韓国の選挙結果に影響を与える手段に用いてきた。

北朝鮮国防委員会偵察総局の元幹部で脱北者のキム・ククソン(仮名)は、12年の大統領選当時のサイバー作戦に関与したと告白した。キムによると、北朝鮮のサイバー部隊は保守派の朴槿恵(パク・クネ)候補と中道派の安哲秀(アン・チョルス)候補への批判を政治ニュースのコメント欄に投稿する世論操作工作を行ったという。有権者を北朝鮮に有利と思われる候補者に向かわせ、韓国政治の内部分裂を悪化させるのが狙いだった。

工作は現在も続いている。韓国国家情報院は、選挙期間中に高度なデジタル技術を使った誤情報のリスクが高まっていると警告した。同院の当局者は、北朝鮮系のハッカーがAIによる偽の画像や文書の作成を始め、政治不安や混乱をあおっているとの懸念を示している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中