最新記事
中国

国家安全条例の可決で「香港の中国化計画」が大詰めに

THE SCREW TIGHTENS

2024年4月2日(火)07時30分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
香港

条例案可決を報告する李家超(ジョン・リー)行政長官 VERNON YUENーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<香港議会が国家安全維持法を補完する国家安全条例を可決した。息苦しい香港から人とカネが流出し続けているが、中国政府はこの街を西側へ浸透するための拠点として改造するだろう>

香港議会は3月19日、中国政府が反体制活動を情け容赦なく取り締まる目的で2020年に導入した国家安全維持法(NSL)を、さらに補完する「国家安全条例(SNSO)案」を可決した。

ひどく不評なこの条例案は、成立までに20年以上かかった。香港政府がこの条例案の可決を最初に試みたのは03年。だが50万人規模の抗議デモや企業からの想定外の反発で頓挫した。今回は、反対運動が一掃され、「100%愛国的」な議員たちによって2週間もかからずに可決された。香港政府は施行後2日もたたないうちに、NSL違反で服役中の政治犯の減刑を取り消した。

これで中国への香港返還が決まった1984年以来、ゆっくりだが着実に進められてきた体制改造は大詰めを迎えた。当時、中国の最高指導者だった鄧小平は賢明にも忍耐と抑制の戦略を選択。毛沢東思想によって破綻した中国経済は外国に門戸を開き、欧米の助けを借り資本主義の道を歩んでよみがえった。だが、復活した中国が今も開放的かつ友好的であると期待できないし、すべきでもない。

それはつまり香港にとって、中国共産党主導による社会・政治の再編を意味する。ビジネスであれ軍事であれ秘密工作であれ、香港は新たな目的と使命を担う。香港政府は本格的な民主化運動はおろか、いかなる反対意見も容認しない。民主化運動は、厳格ながら稚拙なNSLで取り締まっていた。続いて、イギリス式の法治主義に基づきつつも中国の全体主義をはらんでより慎重に設計されたSNSOが、今後はあらゆる反対意見を取り締まる。

ただし、結果は散々だ。香港はNSL成立後、莫大な資本と人材の流出に見舞われている。アジアトップの金融センターとしての将来性をほぼ失い、資本も人材もライバルのシンガポールに流れた。

なお悪いことに、タクシー運転手からビジネスマンに至るまで、民主化運動は金儲けの邪魔だと見なしてきた忠実な政府支持者の間でも、香港の体制改造に対する支持が低下しつつある。彼らは今や、生活にとって中国こそが最大の脅威であると考え、政府にそっと背を向け始めている。中国共産党が資金提供する2大政党の間に亀裂も走った。一方の政党に所属する重鎮議員が、SNSOの可決手段に公然と疑問を呈し、もう一方の政党から「非国民」の烙印を押されたのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中