最新記事
ロシア

銃乱射テロでプーチンはいかに弱体化を露呈したか

Putin Is 'Losing Control' in Russia: Dictator Expert

2024年3月28日(木)18時22分
ブレンダン・コール

ボイズによれば、ウクライナとISの結びつきを強調するロシアのプロパガンダは「明らかにやり過ぎ」で、さしものロシア当局も今はトーンダウンし、「西側が背後で糸を引いていたことを漠然と示唆する」にとどめている。

その事実が物語るのは、プーチンの「ナラティブが説得力を失ったということだ」と、ボイズは述べている。このテロを契機に、プーチンはウクライナの戦線を現状のまま凍結し、ウクライナ戦争からより広範な「対テロ戦争」へと軸足を移すことも考えられるという。

今の危機はまた、「プーチンの統率力が低下し、肥大化した情報機関内部の権力闘争が彼の手に負えなくなっている」ことを示しているようだと、ボイズは述べている。

病院に運ばれた重傷者が死亡したため、テロの犠牲者は27日時点で140人になったと、ロシア当局の発表としてAP通信が伝えた。

テロ当日、IS傘下のグループISホラサン州(IS-K)が犯行声明を出し、ソーシャルメディアのIS-K系列チャンネルが銃撃の模様を伝える動画を公開した。

だがFSBのアレクサンドル・ボルトニコフ長官は西側のスパイ組織が関与していると断定。銃撃の容疑者はウクライナに逃れようしているところを逮捕されたと、プーチンの主張を繰り返した。

NATOへの挑発行為の口実に

とはいえベラルーシの権威主義的な指導者であるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領によれば、容疑者一味は当初ベラルーシに逃げようとしたが、国境警備が厳重なためウクライナに向かったというのが真相のようだ。

『ロシアのFSB:連邦保安局の略史』の著者で、英ブルネル大学で情報・安全保障を講じているケビン・リールは、米政府が伝えた重要なテロ情報をロシア当局が無視したことを問題視し、ロシア国内のテロ対策はかなり手ぬるい状況になっているとみて、「今後が危ぶまれる」と本誌に語った。

「プーチンはタフな指導者のイメージが壊れることを恐れ、加害者をつかまえて処罰し、断固たる姿勢をアピールしようとしている」と、リールは言う。「テロを防げなかった責任をFSBになすりつけ、自分を国民を守るヒーローに仕立てようというのだ」

リールによれば、FSBはウクライナと西側の関与を示す「証拠」をでっち上げるかもしれない。

そうなれば、ロシアはそれを口実に「ウクライナの民間インフラをさらに容赦なくたたきつぶすだろう」と、彼は言う。「本格的な戦争にエスカレートしない範囲内で、NATO加盟国に挑発的な軍事行動を行う可能性も否めない」


20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツの輸出、今年は停滞の見通し=商工会議所調査

ビジネス

三菱重の今期、最高益を見込む 市場予想には届かず

ワールド

焦点:「反白人感情」と対決誓うトランプ氏、支持者に

ワールド

インド与党が野党・イスラム批判の動画投稿、選管が削
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中