トゥオン国家主席が「電撃的解任」ベトナム共産党版の反腐敗闘争に明日はあるのか?
Vietnam’s New Realities
わずか1年余りで国家主席の座を退くことになったボー・バン・トゥオン CARLOS BARRIAーREUTERS
<就任からわずか1年で国家主席が突如解任された。前任者に続く異例となる主席の連続退場が物語るベトナムの汚職の深刻さと、党内権力闘争の見えない結末の行方>
ベトナム国会は3月21日、ボー・バン・トゥオン国家主席(53)の解任を決議した。これで1年半もしないうちに、2人の国家主席が相次ぎ辞任したことになる。
ベトナム共産党中央執行委員会は20日の声明で、トゥオンの「個人的な願いを受け」て、全ての公職および党職からの辞任を了承したと発表。同時に「ボー・バン・トゥオンの違反と短所は、共産党の評判を傷つけた」としている。
ロイター通信がベトナム国営メディアを引用して報じたところによると、21日の国会の採決は、党中央執行委の決定を承認したものだ。後任人事についての報道はなく、当面は憲法に基づき、ボー・ティ・アイン・スアン副主席が国家主席代行を務めるという。
トゥオンが国家主席に就任したのは昨年3月。その2カ月前、前任者であるグエン・スアン・フックは、新型コロナ感染拡大対策に絡んだ汚職事件に関与したことが明らかになり辞任した。ただ最近になり、トゥオン自身の辞任の噂もささやかれていた。
国賓訪問がキャンセルに
それが一気に現実味を帯びてきたのは、前週予定されていたオランダ国王夫妻の国賓訪問が、ベトナム側の「国内事情により」延期されるとの声明が、オランダ王室から発表されたときだ。本来ならトゥオンが国家主席として賓客をもてなすはずだった。
党中央執行委の声明は、トゥオンの具体的な「違反と短所」には触れていない。だが、ベトナムの最高指導者であるグエン・フー・チョン党書記長が進めてきた腐敗追放運動と関連していることは、ほぼ間違いないだろう。
ISEASユソフ・イシャク研究所(シンガポール)のレ・ホン・ヒエップ客員研究員によれば、トゥオンはベトナムの不動産開発大手フックソンが絡む贈収賄事件に関与した疑いがある。
さらに、「非公式だが信頼できる情報筋」によると、トゥオンがクアンガイ省の党委員会書記だった2011~14年、「トゥオンの親戚がフックソンから600億(約240万ドル)を受け取っていた」という。その目的は「トゥオン家の先祖を祭る霊廟を建てるためだったらしい」。
今年3月中旬には、クアンガイ省の元トップ(かってトゥオンの部下だった人物だ)が、汚職容疑で逮捕された。
チョンが16年から進めてきた腐敗追放運動は、党および政府の上層部にも大きく切り込んできた。
最高指導部である党政治局でも、18人のメンバーのうちフックとトゥオンを含む4人が失脚。さらに副首相が1人、閣僚が2人、地方政府トップが10人以上、そして文字どおり数百人の政府関係者が「犠牲」になった。