最新記事
アメリカ大統領選挙

トランプの再登板で世界はグリーンになる「不都合な真実」

WRONG ON NATURAL GAS

2024年3月7日(木)19時17分
ダイアナ・ファーチゴットロス(保守系シンクタンク米ヘリテージ財団エネルギー・気候・環境センター所長)
トランプの再登板で「むしろ世界はクリーンに」世界のCO2排出量は減る

欧州はアメリカ産LNGに依存(ポーランドに入港する米タンカー) BARTEK SADOWSKIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<天然ガス生産・輸出を制限するバイデン政権は、供給を断たれるアメリカ以外の国々での石炭回帰を招く。破滅的な政策を覆すことが国内外での排出削減につながる。 本誌「もし『トランプ大統領』が復活したら」特集より>

ドナルド・トランプ前米大統領が再び政権を率いたら、地球環境にとってうれしいニュースになりそうだと、筆者は考える。

格好の証拠が、アメリカの液化天然ガス(LNG)輸出に関して、ジョー・バイデン米大統領が1月26日に行った発表だ。

それによると、エネルギー省(DOE)が環境などへの影響を精査するまで、LNGの新規輸出認可が一時的に停止される。

だがアメリカのLNG輸出認可停止は、世界各地で石炭利用を拡大させ、世界の二酸化炭素(CO2)排出量を増やすことになりかねない。

既に欧州は、ロシアの天然ガス供給停止によるエネルギー不足を受けて、石炭に目を向けている。

世界全体の排出量を削減するには、可能な限り石炭利用を避けなければならない。

同じく重要なことに、輸出認可停止はアメリカの敵国の利益になるだろう。

LNG価格は生産量見通しに基づくため、バイデンの決定は主要生産国ロシアのLNGの価格も押し上げる。思いがけない大儲けだ。

「反環境」的な中国も後押ししそうだ。この16年間に、天然ガスへの切り替えが進むアメリカのCO2排出量は約14億トン減少したが、中国では約58億トン増加した。

一方、アメリカの同盟国は打撃を受ける。

最も影響が大きいのは、ロシアが天然ガス供給を停止した2022年以降、アメリカからの輸入を拡大している欧州だ。

DOE傘下のエネルギー情報局(EIA)によれば、昨年上半期の米LNG輸出量は世界1位で、日量平均116億立方フィート(約3億3000万立方メートル)。

昨年の最大の輸出先が欧州地域だった。

アメリカは排出削減になるが

アジアも同様だ。同盟国のインドや韓国、日本は排出量削減と天然ガス利用の拡大を望んでいるが、アメリカが供給を断てば石炭回帰を迫られる。

石炭は中国がより容易に提供できるコモディティ(1次産品)だ。

バイデンはあらゆる手を尽くして、アメリカの天然ガス生産量を減らそうとしているが、この政策を覆すことが国内外での排出削減につながる。

バイデンは21年、大統領就任初日に国有地・水域での掘削許可を暫定停止し、カナダと米メキシコ湾岸を結ぶキーストーンXLパイプラインの建設認可を取り消す大統領令に署名した。

化石燃料は過渡期にあり、遠からず不要になると主張している。

バイデンの考えが正しくても(実際には誤りだが)意義ある気候変動対策とは言えない。

米政府が資金提供する大気研究センターの評価モデルを用いた予測では、アメリカが化石燃料使用を即時完全停止しても、地球の気温は2100年までに0.2度未満しか下がらない。

中国やインド、ロシア、アフリカ・中南米諸国が石炭利用を拡大しているからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中