首相への好悪から見る「分極化の起点」
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<大規模世論調査「スマートニュース・メディア価値観全国調査」が明らかにした日本の「分断」。連載第2弾では首相の好き嫌いは与野党の好き嫌いとどう関係するのか、東京大学大学院情報学環教授・前田幸男氏が解説する>
いわゆる55年体制の時代、内閣支持率は大きな関心の対象ではなく、内閣の命運は自民党派閥の力学で決まっていた。例えば、海部俊樹内閣は派閥力学により退陣を余儀なくされたが、時事通信の調査で最終支持率は44.2%と高いものであった。
内閣支持率が重要になるのは、選挙制度改革と中央省庁再編で、首相を支える制度基盤が強化されてからである。小泉純一郎内閣になると、「小泉劇場」という言葉が流布し、内閣支持率の高さが話題になった。
複数の報道機関が世論調査の方法を、伝統的な「訪問面接調査」から、即時に調査を実施し、即時的な報道が可能になる「ランダム・ディジット・ダイアリング法(RDD法)」に切り替えたのは、奇しくも、小泉政権期と重なっている。それ以降、内閣支持率の推移は、メディアや世間において多くの関心を集めてきた。
歴代首相に対する評価
今回、「スマートニュース・メディア価値観全国調査(SmartNews Media, Politics, and Public Opinion Survey)」(以下、SMPP調査)における新しい取り組みのひとつは、歴代の首相に対する「好き嫌い」をまとめて尋ねたことである。好き嫌いは支持そのものではないが、過去の内閣に対して、「あなたは〇〇内閣を支持していましたか」と記憶にもとづいた回答を求めるより、有権者の首相評価を回顧的に尋ねる上では、有益な方法だと考えている。
対象となるのは、小泉から岸田文雄にいたる歴代9人の首相である。具体的には、「歴代の首相についてご意見をお聞かせください。同じく、0を『とても嫌い』、10を『とても好き』とします。あなたの好き嫌いはどこに位置しますか。それぞれについて1つずつお選びください」と尋ねている。11点尺度の分布を、各首相についてグラフにしたのが、図1である(縦軸は%)。
図1
グラフの形状からは、有権者が明確に歴代首相を区別した上で、好き嫌いの感情を抱いていることがうかがえる。群を抜いて好かれているのは小泉(平均6.6点)であるが、安倍晋三への好感度は、菅義偉への好感度と並び、その次に高い(5.4点)。その他の首相は、平均値が中間を意味する5点よりも小さいので、どちらかといえば嫌われていることになる。