首相への好悪から見る「分極化の起点」
「保守」と「リベラル」のイデオロギーによる首相への好悪
SMPP調査では、有権者が抱く政治についての考えを、「リベラル」(0)から「保守」(10)までの11点尺度で尋ねている。その11点尺度毎に各首相への好き嫌いの平均値を求めて、グラフにしたのが、図2である。グラフの中に2つの変数の直線的な関係の強さを表す相関係数(r)も参考のために掲載している。視覚に基づいた解釈には注意が必要だが、「リベラル」や「保守」という考えに沿って好き嫌いが分かれる首相と、関連がはっきりしない首相がいるように見える。
2000年代に首相を務めた小泉や福田は中間的立場の有権者から好かれ、両端の有権者からは嫌われる傾向がある。民主党政権の3首相については、何故か「リベラル」寄りの2点の位置でそれぞれ一番好かれている。相関係数を手がかりにすると、菅直人(-0.20)に対する好き嫌いが3人の中ではイデオロギーとの関係が強いようである。
それに対して、第2次安倍政権の主要閣僚の安倍、麻生、菅の3人、中でも安倍はグラフの形状から見る限り、「保守」から好かれ「リベラル」から嫌われるという関係がはっきりしている。特に安倍は、「リベラル」側から「保守」側に移動するに連れて、好感度が上がっていくことが明確である。
図2
首相への好き嫌いから与野党への好き嫌いへ
国会において多数を占めた政党により首相は選ばれるので、首相に対する好き嫌いと与党に対する好き嫌いが強く関連するのは当然である。ただし、首相に好感を抱く有権者が常に野党を嫌う訳ではない。SMPP調査では、首相に対する好き嫌いを尋ねるのと全く同じ形式で、各政党についての好き嫌いを尋ねている。便宜上、11点尺度で測定した首相の好き嫌いを「とても好き」(10、9)、「好き」(8、7、6)、「中立」(5)、「嫌い」(4、3、2)、「とても嫌い」(1、0)の5つに分けたうえで、各グループについて政党に対する好き嫌い尺度の平均値を計算した。
ここでは、小泉、野田佳彦、安倍、そして岸田の4人について、自民党と立憲民主党に対する好き嫌いの尺度のグラフを図3として掲載する。自民党に対する好き嫌いは青、立憲民主党に対する好き嫌いは緑のグラフであるが、左側に与党、右側に野党が配置されるように、野田だけはグラフの左右を入れ替えている。
小泉については、好感度が上がるほど自民党に対する好感度も立憲民主党に対する好感度も上がっているが、それは小泉が超党派的な人気を誇ったことの現れだろう。
野田と岸田については、それぞれへの好感度が上がると、与党への好感度も上がる。ただし、野党への好感度との関係はハッキリしない。首相を好きだからと野党を嫌いになるという力学は働いていない。
それに対して、安倍については、好感度が上がるほど与党への好感度が上がると同時に、立憲民主党への好感度は下がるという関係が見られる。与党への好感度の上がり方に比べると野党に対する好感度の下がり方は小さいが、首相の評価が野党への評価へと連動する必然性はないことを考えると、不思議ではない。麻生と菅の場合も同様のパターンを示す。
首相に好意的だと野党を嫌うというパターンは小泉、福田康夫、岸田、そして民主党政権の3首相には見られないものであり、第2次安倍政権は、それ以前の政権と比べると、与党支持者と野党支持者の間の対立を深いモノにしていたとは言えるだろう。安倍が、立憲民主党や共産党に対して、首相としては異例なことだが、時にケンカ腰とも言えるような態度で議論に臨んだことが原因ではないかと思われる。
首相のリーダーシップのスタイル次第によって、有権者の間の政治的議論が感情的になるのか、あるいは、冷静になるのかが左右されることは決して望ましいことではない。首相の立ち振る舞い自体が有権者の間の対立を深める傾向が今後も続くのか、それとも首相の交代により弱まるのかを、これから注視していく必要があるだろう。
図3
前田幸男(まえだ・ゆきお) 東京大学大学院情報学環
1969年、福岡県福岡市生まれ。東京大学法学部卒業、同法学政治学研究科修士課程修了。米国ミシガン大学政治学博士号取得。2002年に東京都立大学法学部助教授に着任。2006年に東京大学大学院情報学環助教授、2016年から同教授。
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