最新記事
北朝鮮労働者

中国の北朝鮮労働者たちが母国からきた管理官を殺害する異常事件

North Korean Official Killed in China After 'Violent Protests'

2024年1月31日(水)16時17分
アーディル・ブラール

北朝鮮労働党のゴールに向かって進め、というプロパガンダ・ポスター(2023) KCNA via REUTERS

<賃金不払いの不満から中国の工場で働く北朝鮮人労働者による暴動が発生、北朝鮮人管理職が殺害される大事件が発生した>

中国の縫製工場で働く北朝鮮人労働者が賃金不払いを理由にストライキを行い、それが暴動に発展して、労働者を監視するために北朝鮮政府から派遣された役人が殺された可能性があると報じられた。

 

韓国の英字新聞コリア・タイムスは1月29日、北朝鮮国境に近い中国東北部吉林省の和竜市で1月11日から15日にかけて発生した一連の「暴力的な抗議行動」の中で、本国から派遣された北朝鮮政府高官が殺害されたようだと伝えている。

同紙は、韓国のシンクタンク統一研究院(KINU)の趙漢凡(チョ・ハンボム)上級研究員の報告を引用。少なくとも1人の北朝鮮政府関係者が死亡し、他の3人が重傷を負ったという。趙によれば、この高官は縫製工場の労働者を監督するために本国から派遣されていた。

中国当局は通常、北朝鮮からの出稼ぎ労働者の状況について情報を開示しない。北朝鮮人の出稼ぎ労働は中国の製造業におけるグレーゾーンとなっている。国連安保理の対北朝鮮制裁決議で、北朝鮮国民を雇用すること自体が禁じられているからだ。

繊維工場側の操業に透明性がなく、関係者の特定も困難なため、メディアも普通このような騒動をあまり報道しない。本誌は趙の主張を独自に検証することはできなかった。

組織的な給与の横領

中国外務省の汪文斌(ワン・ウエンビン)報道官は29日、北京での定例記者会見で、中国には北朝鮮からの脱北者はいないと主張。経済的な理由で正式な許可なく中国に入国する者は、中国の法律に違反しているという。

本誌は中国外務省と在北朝鮮大使館にコメントを求めたが、返答はなかった。

趙はこの問題に詳しい内部関係者の話として、和竜市の労働者たちは自分たちの給与が横領されていたことに抗議していたと語った。労働者に支払われるべき給与は、説明も同意もないまま、北朝鮮の与党労働党に送金されていたという。約15カ所の縫製工場の従業員に対する賃金不払いは4年から7年に渡っており、その総額は約1000万ドルに上る。

コリア・タイムスは匿名の韓国政府関係者の話を引用し、韓国の情報機関が、北朝鮮の労働者が関与した「事故」は「劣悪な労働条件」のために「発生」したことを確認したと伝えた。

北朝鮮関連ニュース専門サイトNKニュースに対して、こうした工場を管理しているのは北朝鮮の国防省だと趙は語った。

吉林省における北朝鮮労働者の暴動に関する報道は、1991年に韓国に亡命した元北朝鮮外交官高英煥(コ・ヨンファン)による報告から始まっているようだ。高は今年1月、産経新聞に対し、数千人の労働者が賃金未払いを理由に縫製工場や水産加工場でストライキを行ったことを明らかにした。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中