最新記事
能登半島地震

発災10日後も寝具が届かず...能登入りした医師が断言、災害支援成功に不可欠な「ある人材」とは?

A LESSON FOR JAPAN

2024年1月26日(金)18時00分
國井 修(医師、公益社団法人「グローバルヘルス技術振興基金」CEO)

以前ユニセフで働いていた時、私はいかに経験値が高く優秀なロジの専門家「ロジスティシャン」を雇うかが災害支援成功の鍵だと確信していた。死者約14万人を生んだミャンマーのサイクロン災害や200万人以上が危機的状況に陥ったソマリアの一連の緊急事態(紛争、干ばつ、感染症のアウトブレイク)では、飛行機、ヘリコプター、船、トラック、時には牛やラクダなど状況に合わせてありとあらゆる輸送手段を使って、山の奥深くから砂漠の果てまで、食料から医薬品までさまざまな必需品を迅速に送り届けることが、一人でも多くの命を助ける方法だった。

これまで日本の緊急支援を見てきたが、往々にして被災地または応援に駆け付けた自治体職員がこのロジを担当し、必ずしも深い経験や専門性を有していない、また十分な訓練を受けていないという印象を受けた。被災地からの要望と企業や他の自治体などからの物資の提供をマニュアル・アナログでマッチングしているが、それには限界がある。機動力のある自衛隊の能力にも限りがある。緊急事態で真に活躍できるプロのロジスティシャンを育成してロジの「抜け漏れ」を防ぎ、現場のニーズと外部からの支援に関する情報を迅速かつ効率的に収集・マッチングするためIT化を含むシステム改善を今後進めていくべきだろう。

1.5次避難所とは、災害関連死を防ぐとともに、当面の落ち着いた生活環境を確保するため、被災地以外の避難所に移ってもらう「2次避難」の受け入れ先が決まるまでの短期間、被災者が滞在する避難所である。

その場所として指定された金沢のいしかわ総合スポーツセンターは400人を優に収容できるほど広く、冷暖房・空調設備も整ったメインアリーナ、多目的・多機能・バリアフリーのトイレやシャワー・更衣室、救護室といった施設が充実していた。ほかにもサブアリーナや多目的ルーム、会議室などもある。感染症の隔離や要介護者などを集約した支援もでき、広い駐車場があるので被災地から要介護者などを搬送するためのヘリも使えそうだ。

ただ避難所開設に当たっては、単に準備した災害対策用テントを並べ、そこにマットや毛布を置いて人々を収容すればいいという話ではない。そこに滞在する人にどのような配慮や介助が必要か。トイレや食事配給場所までの距離などを考え、どこに要配慮者を滞在させればいいか、などを考慮する必要がある。

また、できれば食寝を分離して、食事や談話スペース、子供がいる場合は遊び場も設置を検討したい。感染症予防や寒冷地対策を考えると、床にそのまま寝るよりも段ボール製ベッドなどを利用して床から一定の高さを保ちたい。金沢市内の病院にある簡易ベッドも必要に応じて提供してもらおうという話にもなった。高齢者が落下しないよう、ベッドの大きさに合った敷布団を用意することも必要だ。希望者の受け入れは、私が現場を視察した2日後の予定だった。準備を手早く進めつつ、被災者を受け入れながらニーズを基に改善していこうという結論になった。

自動車
DEFENDERとの旅はついに沖縄へ! 山陽・山陰、東九州の歴史文化と大自然、そして沖縄の美しい海を探訪するロングトリップ
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中