半導体の公的補助は中国を利する...西側勢はどう動くべき?
CHIP SUBSIDIES BENEFIT CHINA
中国の半導体産業は周回遅れだが(江蘇省南通市の製造工場) FEATURE CHINAーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES
<西側勢が中国に追い越されまいと半導体産業振興に大枚をはたくことは不必要なばかりか、むしろ逆効果に>
新年の予想で1つだけ確実なことがあるとしたら、それは地政学的な競争が今年も続くということだ。EUにとってそれが意味するのはおおむね、特に重要な産品については輸入依存を減らすこと。アメリカは軍事的優位を維持するため、潜在的な敵対勢力、つまり中国の関連技術へのアクセスを阻止するだろう。この2つの試みが重なる重要分野が半導体産業だ。
今や経済大国は軒並み、「半導体戦争」での勝率を上げるため、巨額の予算を付けて国内の半導体産業を振興しようとしている。米商務省は2022年に制定された「CHIPSおよび科学法」に基づき、直接の資金援助(補助金など)、融資、融資保証の形で半導体の研究開発、製造、人材育成に500億ドルを支給する。
EUは昨年、「欧州半導体法」を採択。半導体技術と応用における「競争力と回復力」強化のため巨額の予算を投じる。
アジアでは日本と韓国が国内の半導体産業支援に大型予算を組んでいる。中国も負けじと、報道によれば総額1400億ドル超を半導体産業振興に投じる計画だという。
こうした振興策の全てに共通するのは、いわゆる「ファブ(Fab)」、つまり半導体製造工場の建設に最大の資金が充てられること。これは愚策と言わざるを得ない。ファブには特殊な設備と超クリーンな環境が必要で、新工場の設備投資はとてつもなく高くつく。だがファブができたら、それで終わりではない。
最大で最もクリーンなファブは今、アジアにあり、エッチング加工用などの最新鋭の機械は欧州で製造されている。そして回路パターンの設計に必要な最も優れたソフトはアメリカで生まれている。先端的なチップの完全な国産化を実現するには、これら全てを自前で調達できなければならない。
自前調達はすぐには不可能だ。半導体の小型化と高速化が進むなか、ごく少数の企業が高度に専門化されたノウハウを集積してきた。このノウハウはとんでもなく膨大で、特殊かつ複雑だ。そのため最先端の半導体製造に必要な技術は簡単には輸入できず、コピーもできない。後発企業がようやく膨大なノウハウをつかんだ頃には、先発企業ははるか先を走っていて、後発組はせいぜい1世代遅れの半導体を作れるのがオチだろう。
だからこそ中国は金に糸目を付けず半導体産業にテコ入れしてきたのに、今もこの分野で優位に立てていない。15年に中国政府は、25年までに国内の半導体需要の70%を国産品で賄えるようにすると宣言したが、現状では目標達成は夢のまた夢だ。