最新記事
野生動物

巨体過ぎて救助できない座礁クジラを楽にする画期的ツールとは

Engineer Finds More Humane Way of Euthanizing Beached Whales

2024年1月11日(木)17時46分
ジェス・トムソン
打ち上げられたクジラ

打ち上げられたクジラは死ぬまでに何日も苦しむ(2012年に北イングランドで座礁したミンククジラ) REUTERS/Nigel Roddis

<海岸に打ち上げられたクジラの多くは死ぬまでに数日かかり、その間に大きな苦痛を味わう。「安楽死」にも銃や爆博物しかないのが実情だったが>

海岸に打ち上げられたクジラを長引く苦痛から救う画期的なツールが開発された。特大サイズの注射針だ。

いわゆる「クジラ安楽死キット」には、直径約0.7センチで、長さが約1〜1.5メートルのスチール製の針管が入っている。開発したのは人間と動物の手術器具の設計を手掛けるオーストラリアの技術者ジリアス・アンタナイティス。何らかの原因で海岸に打ち上げられた、助かる見込みのないクジラを安らかに死なせるためにこのキットを設計した。


座礁クジラの最期は悲惨だ。助かる見込みがないクジラをやむなく浜辺に放置すれば、多くの場合死ぬまでに何日もかかる。その間、自重で血流が滞り、日差しで皮膚は焼け、鳥などのスカベンジャーが群がってその体を少しずつついばむ。

「クジラの座礁は世界各地で多発している。特に何頭ものクジラが海岸に打ち上げられる『集団座礁』には、救助チームも手の施しようがなく、無念の思いに駆られるばかりだ。どうにか海に戻したとしても、生存できない場合が多く、生存が望めないクジラは、できる限り人道的に安楽死させる必要がある」と、マッコーリー大学の海洋生物学者カラム・ブラウン教授は本誌に語った。

これまでは銃や爆発物も

新たに開発された注射針は座礁クジラの心臓に直接薬剤を注入し、最小限の苦痛で安楽死させるための器具だ。これまでは、座礁した大型の海生哺乳類の安楽死には銃か、場合によっては爆発物が用いられてきたが、いずれも安らかな死とは言いがたい。

「心臓注射も全く苦痛を与えないわけではないが、長く苦しみながら死んでいくよりはるかにましだし、頭部に銃弾を撃ち込むよりも確実な方法だろう」と、ブラウンは言う。

心臓に注入する薬剤は塩化カリウムで、心停止による速やかな死を招く。

「塩化カリウムはさまざまな動物の安楽死に広く用いられ、アメリカでは人間の安楽死にも使用されている。静脈注射か心臓に直接注入する方法があり、後者のほうが即効性がある。十分な量を投与すれば心停止を引き起こし、患者は速やかに──数分以内に息を引き取る」と、ブラウンは説明する。「新しい器具はクジラ用に特大サイズにしたもので、心臓に直接注入する方式らしいから、使用には経験を積んだ獣医が必要になる」

クジラに注射をするのはただでさえ難しい。非常に厚くて硬い皮膚と脂肪層を貫通しなければならないからだ。そのためクジラ用の針は、大きさだけでなく、構造も普通の注射針とは異なる。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中