巨体過ぎて救助できない座礁クジラを楽にする画期的ツールとは
Engineer Finds More Humane Way of Euthanizing Beached Whales
打ち上げられたクジラは死ぬまでに何日も苦しむ(2012年に北イングランドで座礁したミンククジラ) REUTERS/Nigel Roddis
<海岸に打ち上げられたクジラの多くは死ぬまでに数日かかり、その間に大きな苦痛を味わう。「安楽死」にも銃や爆博物しかないのが実情だったが>
海岸に打ち上げられたクジラを長引く苦痛から救う画期的なツールが開発された。特大サイズの注射針だ。
いわゆる「クジラ安楽死キット」には、直径約0.7センチで、長さが約1〜1.5メートルのスチール製の針管が入っている。開発したのは人間と動物の手術器具の設計を手掛けるオーストラリアの技術者ジリアス・アンタナイティス。何らかの原因で海岸に打ち上げられた、助かる見込みのないクジラを安らかに死なせるためにこのキットを設計した。
座礁クジラの最期は悲惨だ。助かる見込みがないクジラをやむなく浜辺に放置すれば、多くの場合死ぬまでに何日もかかる。その間、自重で血流が滞り、日差しで皮膚は焼け、鳥などのスカベンジャーが群がってその体を少しずつついばむ。
「クジラの座礁は世界各地で多発している。特に何頭ものクジラが海岸に打ち上げられる『集団座礁』には、救助チームも手の施しようがなく、無念の思いに駆られるばかりだ。どうにか海に戻したとしても、生存できない場合が多く、生存が望めないクジラは、できる限り人道的に安楽死させる必要がある」と、マッコーリー大学の海洋生物学者カラム・ブラウン教授は本誌に語った。
これまでは銃や爆発物も
新たに開発された注射針は座礁クジラの心臓に直接薬剤を注入し、最小限の苦痛で安楽死させるための器具だ。これまでは、座礁した大型の海生哺乳類の安楽死には銃か、場合によっては爆発物が用いられてきたが、いずれも安らかな死とは言いがたい。
「心臓注射も全く苦痛を与えないわけではないが、長く苦しみながら死んでいくよりはるかにましだし、頭部に銃弾を撃ち込むよりも確実な方法だろう」と、ブラウンは言う。
心臓に注入する薬剤は塩化カリウムで、心停止による速やかな死を招く。
「塩化カリウムはさまざまな動物の安楽死に広く用いられ、アメリカでは人間の安楽死にも使用されている。静脈注射か心臓に直接注入する方法があり、後者のほうが即効性がある。十分な量を投与すれば心停止を引き起こし、患者は速やかに──数分以内に息を引き取る」と、ブラウンは説明する。「新しい器具はクジラ用に特大サイズにしたもので、心臓に直接注入する方式らしいから、使用には経験を積んだ獣医が必要になる」
クジラに注射をするのはただでさえ難しい。非常に厚くて硬い皮膚と脂肪層を貫通しなければならないからだ。そのためクジラ用の針は、大きさだけでなく、構造も普通の注射針とは異なる。