最新記事
パレスチナ

ハマスとイスラエル暴力の悪循環は、米中が協力して中東和平を推進するチャンスも生んでいる

ISSUES 2024: MIDDLE EAST

2023年12月20日(水)10時45分
チャールズ・カプチャン(米ジョージタウン大学教授)
バイデン 習近平

2023年11月のAPEC会場で顔を合わせたジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席 Kevin Lamarque-Reuters

<現状から希望を見いだすのは難しいが、ガザと西岸とイスラエルで同時に政権交代が起こり和平実現に意欲的な指導者が誕生する可能性もある。そして米中による和平推進という意外なチャンスも。本誌「ISSUES 2024」特集より>

2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエル南部を奇襲攻撃し多くの住民を殺害。これを機に中東で新たな流血が始まった。

イスラエルによる報復攻撃はハマスの弱体化に成功しても、ガザの住民を混乱させ、苦しめ、怒らせるだろう。何より今回の戦争は、中東全域でパレスチナやアラブ諸国とイスラエルの関係を損なう。事態収拾には時間がかかりそうだ。

今回の恐ろしい暴力に希望の光を見いだすのは難しい。それでも戦争の衝撃がイスラエルとパレスチナの紛争を最終的解決に向かわせる可能性は一考に値する。イスラエルとパレスチナの人々に底知れぬ絶望を味わわせている悲劇は、恒久的平和への転機になり得るだろうか。

まず、紛争の範囲と激しさが、イスラエル人とパレスチナ人双方に数十年来の暴力の悪循環を断ち切る必要性を痛感させる可能性がある。

長年の戦闘で双方が態度を硬化させているのは確かだ。

イスラエルはパレスチナ側の散発的攻撃への報復として厳しい規制を課しがちだ。イスラエルは2005年にガザから軍と入植者を撤退させたが、その結果ハマスが権力を掌握し一連の攻撃を開始。その経験から多くのイスラエル人は、土地回復を推進する和平努力は無謀で、現状維持のほうがはるかに無難だと思い込んでいる。

問題は、イスラエルがヨルダン川西岸地区を占領しガザを締め付ける現状がパレスチナ側には許し難いことだ。パレスチナ側はイスラエル側の強硬姿勢が戦争を招いたとみている。イスラエルに現状は彼らが思うほど良くないと思い知らせるには暴力などの積極的抵抗以外にないと考え、戦い続ける。

その結果、イスラエルは締め付けを強化。こうして非難の応酬と暴力の悪循環が続く。

だが今回イスラエルは、自慢の国家安全保障機関の失敗に愕然としている。軍事的優位、抑止的脅迫、広域監視、フェンス、壁、検問所などイスラエルの国防政策の柱は、10月7日にハマスが越境攻撃を仕掛け1200人以上が犠牲になるのを防げなかった。何かを変える必要がある。

それはパレスチナ側も同じだ。ハマスの虚無型テロはガザの広い範囲に死と破壊をもたらしただけで、路線変更の必要性を浮き彫りにした。実際、ガザの多くの住民はハマスの過激主義に代わる選択肢を受け入れる覚悟ができていた。

10月7日より前にガザで実施された世論調査では、住民の67%がハマス主導の政府をほとんどもしくは全く支持しないと回答。支持政党にハマスを選んだのは27%、「イスラエル壊滅」という目標を支持したのはわずか20%だった。住民の大多数は紛争の平和的解決を望み、半数以上が2国家共存が好ましいと回答した。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中