地政学的な自立に、中国との貿易関係の恩恵を上回るメリットはあるのか?
SANCTIONS REALLY DON’T WORK
欧州委員会は電気自動車(EV)に対する中国の国家補助金を調査して輸入を制限しようという構えだが、それは戦略としてほとんど意味がない。
太陽光パネルや風力タービンといった、グリーンな社会に欠かせない製品については特にそうだ。
おまけにアメリカでは、中国との通商関係について理性的な議論をすることが難しい。
米バイデン政権の公式な立ち位置は、一部の分野に厳しい規制を課しながら、大部分の貿易関係の維持を目指すというものだ。
この戦略について、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は「小さな庭」を「高い柵」で囲うと表現している。
ただし実際は中国製品に対する反発が大きいため、「小さな庭」は広がっている。
中国による「経済的威圧」の脅威は誇張されがちだ。
大抵は対処可能なのに、西側諸国はリスク軽減策として貿易障壁を維持している。
中国による経済的威圧の効果は限定的と考える人々でさえ、台湾侵攻時に想定される包括的な制裁に備えて対中貿易を制限すべきだとしばしば主張する。
これでは西側諸国は、あまり現実的ではないシナリオのコストを負担し続けることになる。
政策立案は臆測に頼らず、経験と健全な経済的議論に基づいて行われるべきだ。
中国との貿易関係を維持する恩恵は、中国に対して戦略地政学的に自由であることの利点をはるかに上回る。
ダニエル・グロー
DANIEL GROS
ドイツ出身の経済学者。IMFのアドバイザーなどを経て、現在はシンクタンク欧州政策研究センター研究部長。主な研究テーマはEUの経済政策で、欧州議会への助言も行う。
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