最新記事
中東

今こそ「2国家解決」が現実的選択...どうしたら実現できるか?

TWO-STATE REALITIES

2023年12月12日(火)13時40分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
ガザに照準を合わせるイスラエル軍の大砲(11月21日) CHRISTOPHER FURLONG/GETTY IMAGES

ガザに照準を合わせるイスラエル軍の大砲(11月21日) CHRISTOPHER FURLONG/GETTY IMAGES

<イスラエルとパレスチナの和平は、高尚な外交的理想であるばかりではない。21世紀の世界の平和と安定のために不可欠な政治的現実だ>

多くの幻想がもはや打ち砕かれた。イスラム組織ハマスによる10月7日の奇襲攻撃以前、イスラエルとパレスチナの数十年に及ぶ紛争は解決不能で、可能なのは対処することだけだと、第三者も当事者も考えるようになっていた。新たに芽生えた希望は、パレスチナ問題には触れずに、イスラエルが近隣アラブ諸国と和平を実現して外交関係を結ぶこと。パレスチナ人の関与も、パレスチナ国家の樹立もなしに、中東に平和をもたらせるのではないか──。

だが今では、そんな未来像は錯覚にすぎなかったとはっきりしている。

1947年、イギリスによるパレスチナ委任統治の終了が翌年に迫るなか、国連総会は当該地域をユダヤ人国家とアラブ人国家の2つに分けるというパレスチナ分割決議を採択した。だが48年にイスラエルが独立宣言を行った直後、近隣のアラブ連盟5カ国が宣戦布告し、第1次中東戦争が勃発。両者の争いは形を変えながら現在まで続いている。

紛争終結の選択肢は、今も昔もほとんど変わらない。理論的には、ヨルダン川と地中海の間の一帯をどちらかが制圧して勝利し、敗北側を追い出すのが1つの方法だ。しかし今の時代、そんなやり方が国際社会に通用するはずがない。ならば、唯一の道は双方が妥協して、緊密な経済関係で結ばれた2つの国家を創設することだ。75年以上前の国連決議は、同じ道筋を描いていた。

忘れられかけていた「2国家解決」は10月7日以降、パレスチナ自治区ガザで続く戦争と、果てしない中東紛争の完全な終結をめぐる議論において再浮上している。この新たな関心は、克服できないジレンマを前にした絶望の表出にすぎないのか。それとも、極度に困難とはいえ唯一の解決策を目指す真剣な姿勢の表れなのか。

2国家解決がまともに取り上げられたのは、90年代前半のオスロ合意当時が最後だ。解決の日は驚くほど近いと大勢が信じたが、95年にイスラエルのラビン首相がナショナリストに暗殺され、期待は消えた。その後、継続の試みはあったものの、合意は形骸化。テロで相手を屈服させられると考えたパレスチナ側の歴史的誤算である第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)が勃発し、和平プロセスは崩壊した。

以来、オスロ合意は「あり得た姿」の悲しい象徴と化し、2国家解決はかつてなく遠のいたようにみえる。テロや占領の圧迫を受け、急進派の圧力に押されて、双方が暴力と対決の道を突き進んできた。その頂点が10月7日の恐るべき民間人虐殺だ。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中