最新記事
中東

ガザ「終戦」...アメリカは間違っており、誰もパレスチナを助けず、双方なにも変わらない

No Way Out

2023年11月24日(金)21時25分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)
パレスチナ自治政府のアッバス議長、ブリンケン米国務長官

パレスチナ自治政府のアッバス議長(右)を電撃訪問したブリンケン米国務長官(11月5日、ヨルダン川西岸のラマラで) PALESTINIAN PRESIDENCYーHANDOUTーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<いま一時休戦中のガザ戦争だが、米政府が続けている外交努力の目的の1つは「戦後処理」。だがこの戦争が終わっても、パラダイムシフトは起こらない>

本誌2023年11月28日号は「歴史で学ぶイスラエル・パレスチナ」特集。バビロン捕囚/ディアスポラ/サイクス・ピコ協定/イスラエル建国/第1次~4次中東戦争...対立の根源を歴史から紐解きます。

◇ ◇ ◇

今回のガザ危機が始まって以来、アントニー・ブリンケン米国務長官はいつにも増して大忙しだ。イスラエルを何度も訪問し、11月初旬にはヨルダンやトルコのほか、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府やイラクを電撃訪問した。

こうした外交活動の当面の最大の目的は、イスラム組織ハマスの奇襲に対するイスラエルの猛烈な報復攻撃に巻き込まれたガザ市民のために、人道支援の方法を確保することだ。

しかしそこには、もう1つ大きな目的が見え隠れしている。それはこの混乱の「戦後処理」だ。

米政府は、パレスチナ自治政府の統治能力と権威を立て直して、ヨルダン川西岸とガザを統治させると同時に、ガザに国際平和維持部隊を派遣して安定を図ろうとしているようだ。アメリカの政治的、外交的、戦略的な懸念と、一部のアラブ諸国の懸念に対処するためには、おそらくこれしか方法はない。だが、その努力は失敗する可能性が高い。

なぜか。確かにこの混乱を収拾する上で、アメリカの外交が機能する余地があるのは間違いない。だが、この戦争が、中東和平におけるパラダイムシフトであるかのように見なすブリンケンの外交活動は、その前提からして間違っている。

イスラエルとハマスの戦争が終わったときに現れるのは、新しい中東ではなく、今までどおりの中東だろう。

尽きるネタニヤフの政治生命

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の政治生命が尽きようとしているという読みは正しい。ハマスの奇襲を許すというイスラエル政治史上最悪の大失態を演じたことで、ネタニヤフは「強硬な手段を駆使してでもイスラエルの安全を守る男」という自分の看板を台無しにした。このピンチを乗り切るのは、とてつもなく難しいだろう。

だが、ネタニヤフが失脚したからといって、イスラエル政治でハト派が復活するわけではない。そしてハト派が復活しなければ、米政府や国連が推進する2国家解決(パレスチナ国家の樹立を認めて2国家の共存を図る案)の実現は難しい。

ハマスの奇襲攻撃前でさえ、ハト派は弱小だった。2022年11月のクネセト(国会)選挙で、左派政党メレツの獲得議席はゼロ。かつては二大政党の1つとして、保守政党リクードの向こうを張っていた労働党も、わずか4議席にとどまった。

ガザでの戦闘にケリがつくまで新たな選挙はないだろうが、ハマスが残忍な事件を起こした直後では、イスラエル国民がパレスチナとの平和的共存を訴える政党を支持するとは思えない。ネタニヤフ後のイスラエル政府は、中道右派連合となる可能性が高い。

自動車
DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ──歴史と絶景が織りなす5日間
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、国際水域で深海採掘へ大統領令検討か 国連迂回で

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに最大5.98兆円を追

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中