最新記事
中東

ガザ「終戦」...アメリカは間違っており、誰もパレスチナを助けず、双方なにも変わらない

No Way Out

2023年11月24日(金)21時25分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)

今回の戦争の2週目にイスラエルで行われた世論調査では、国家統一党を率いるベニー・ガンツ前国防相が幅広い支持を集めた。しかしガンツは、イスラエル政治では中道と分類されるが、少し前まではネタニヤフと手を組んでいたタカ派だ。パレスチナに国家の地位を与えることについても立場を明らかにしていない。

従って、ブリンケンらアメリカの外交チームが、2国家解決案を復活させられると考えているとすれば、イスラエル政治を大きく見誤っている。それにパレスチナ自治政府の機能を復活させるといっても、かつての支援はマフムード・アッバス自治政府議長ら政府高官の腐敗を悪化させただけだった。

ひょっとするとブリンケンは、パレスチナ自治評議会(議会)の選挙を実施させようとしているのかもしれない。

しかし選挙になれば、アッバスは敗北する可能性がある。そもそもパレスチナで15年以上選挙が行われていないのは、06年に初めて選挙に参加したハマスが、アッバス率いる主流派ファタハに大勝したからだ(その後ファタハとハマスは武力衝突に発展し、07年にハマスがガザの実効支配をもぎ取った)。

アメリカは、パレスチナ自治政府の自立を支援するに当たり、国際社会を巻き込もうとするだろう。しかし戦後のガザの治安維持やパレスチナ自治政府の再生を助けようと手を挙げる国など、中東にさえも存在しない。

どこかで国際会議が開かれて、ガザ復興に数十億ドルを拠出する合意がまとめられるかもしれないが、ほとんどは口約束に終わるだろう。

また、ガザの治安維持のために、外国が軍隊を派遣することは考えにくい。ヨーロッパ諸国は恐怖から抵抗するだろうし、エジプトはガザを押し付けられる懸念から尻込みするだろう。それ以外のアラブ諸国にはそのような任務を担う軍事力がない。

【関連動画】「来ないでほしい」がエジプトの本音...ガザ避難民の流入をどうしても避けたい理由

パラダイムシフトではない

だが、たとえこうした問題を全てクリアしたとしても、イスラエルとパレスチナの対立の根本は変わらない。

すなわち、イスラエルは依然として聖地エルサレムをパレスチナと共有するつもりはないし、パレスチナ難民の帰還を認めない。ましてや1967年の第3次中東戦争前の境界線を尊重する(つまり多くの入植地を放棄する)ことはないだろう。

パレスチナ側も、エルサレムを首都とする立場を譲らないし、難民の帰還権を放棄することもなく、完全な主権国家の地位を断固として求めるだろう。今回のイスラエル・ハマス戦争には、こうしたイスラエルとパレスチナの伝統的立場を変える要素は一切ない。

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

10月コンビニ売上高は8カ月連続増、気温低下・販促

ビジネス

首都圏マンション、10月発売戸数28.2%減 23

ワールド

中国原油輸入、10月はロシア産が今年最高 クウェー

ワールド

サウジへのF35売却、イスラエル運用機より性能劣る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中