ガザ「終戦」...アメリカは間違っており、誰もパレスチナを助けず、双方なにも変わらない
No Way Out
パレスチナ自治政府のアッバス議長(右)を電撃訪問したブリンケン米国務長官(11月5日、ヨルダン川西岸のラマラで) PALESTINIAN PRESIDENCYーHANDOUTーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
<いま一時休戦中のガザ戦争だが、米政府が続けている外交努力の目的の1つは「戦後処理」。だがこの戦争が終わっても、パラダイムシフトは起こらない>
※本誌2023年11月28日号は「歴史で学ぶイスラエル・パレスチナ」特集。バビロン捕囚/ディアスポラ/サイクス・ピコ協定/イスラエル建国/第1次~4次中東戦争...対立の根源を歴史から紐解きます。
今回のガザ危機が始まって以来、アントニー・ブリンケン米国務長官はいつにも増して大忙しだ。イスラエルを何度も訪問し、11月初旬にはヨルダンやトルコのほか、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府やイラクを電撃訪問した。
こうした外交活動の当面の最大の目的は、イスラム組織ハマスの奇襲に対するイスラエルの猛烈な報復攻撃に巻き込まれたガザ市民のために、人道支援の方法を確保することだ。
しかしそこには、もう1つ大きな目的が見え隠れしている。それはこの混乱の「戦後処理」だ。
米政府は、パレスチナ自治政府の統治能力と権威を立て直して、ヨルダン川西岸とガザを統治させると同時に、ガザに国際平和維持部隊を派遣して安定を図ろうとしているようだ。アメリカの政治的、外交的、戦略的な懸念と、一部のアラブ諸国の懸念に対処するためには、おそらくこれしか方法はない。だが、その努力は失敗する可能性が高い。
なぜか。確かにこの混乱を収拾する上で、アメリカの外交が機能する余地があるのは間違いない。だが、この戦争が、中東和平におけるパラダイムシフトであるかのように見なすブリンケンの外交活動は、その前提からして間違っている。
イスラエルとハマスの戦争が終わったときに現れるのは、新しい中東ではなく、今までどおりの中東だろう。
尽きるネタニヤフの政治生命
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の政治生命が尽きようとしているという読みは正しい。ハマスの奇襲を許すというイスラエル政治史上最悪の大失態を演じたことで、ネタニヤフは「強硬な手段を駆使してでもイスラエルの安全を守る男」という自分の看板を台無しにした。このピンチを乗り切るのは、とてつもなく難しいだろう。
だが、ネタニヤフが失脚したからといって、イスラエル政治でハト派が復活するわけではない。そしてハト派が復活しなければ、米政府や国連が推進する2国家解決(パレスチナ国家の樹立を認めて2国家の共存を図る案)の実現は難しい。
ハマスの奇襲攻撃前でさえ、ハト派は弱小だった。2022年11月のクネセト(国会)選挙で、左派政党メレツの獲得議席はゼロ。かつては二大政党の1つとして、保守政党リクードの向こうを張っていた労働党も、わずか4議席にとどまった。
ガザでの戦闘にケリがつくまで新たな選挙はないだろうが、ハマスが残忍な事件を起こした直後では、イスラエル国民がパレスチナとの平和的共存を訴える政党を支持するとは思えない。ネタニヤフ後のイスラエル政府は、中道右派連合となる可能性が高い。