最新記事
スペイン

「情熱の国」は一触即発の危機...スペイン社会全体から猛反発を浴びた、ペドロ・サンチェス首相の大胆すぎる「賭け」

The Ultimate Gamble

2023年11月22日(水)17時10分
アルベルト・グアシュ・ラファエル(スペイン在住ジャーナリスト)
スペインのペドロ・サンチェス首相 Alexandros Michailidis-Shutterstock

スペインのペドロ・サンチェス首相 Alexandros Michailidis-Shutterstock

<独立主義地域政党の恩赦要求をのんで続投を決めたサンチェス首相に、有権者も与党も司法も猛反発>

スペインのペドロ・サンチェス首相は、リスクを取るのをいとわない。だが、その新たな「賭け」はスペイン社会全体から猛反発を浴び、国家そのものを引き裂きかねない脅威になっている。

きっかけは、今年7月に行われた総選挙だった。中道右派の最大野党・国民党が、サンチェス率いる中道左派の与党・スペイン社会労働党に僅差で勝利したものの、左右いずれのブロックも過半数に届かず、スペイン政界は数カ月に及ぶ膠着状態に陥った。

混迷を打開すべく、サンチェスは北東部カタルーニャの分離独立を主張する地域政党に協力を求めた。見返りとして合意したのが、刑事訴追の対象であるカタルーニャ独立派への恩赦だ。

この政治的取引によって、社会労働党と急進左派連合の連立政権が続投するめどが立った。スペイン下院は11月16日、首相信任投票を実施し、サンチェス再任が可決された。

とはいえ、代償はあまりに大きい。恩赦法案を中心とする独立主義者への譲歩は右派を激怒させ、社会労働党内で波紋を呼び、司法関係者に一斉批判され、国内各地で抗議デモを引き起こしている。

11月12日には、国民党と極右政党・ボックス(声)が主催したデモに数万人が参加。首都マドリードの社会労働党本部前には連日、市民数百人が集まり、極右集団が警察ともみ合いになる事件も起きた。

スペインの議会制の下では、連立政権はいわば「常態」だ。今回、サンチェスを支持した政党の合計得票数は、この数十年間の過去の政権のいずれも上回る。懸念を招いているのは、サンチェスが駆使した手法だ。続投を果たすため、国家の分裂を存在理由とする政党と手を組むとは......。

「右派政権誕生を阻止しようとした者たちが、独立志向の右派に支配権を手渡そうとしている」。社会労働党所属の政治家、エミリアノ・ガルシアパヘはそう指摘する。

カタルーニャの火薬庫

そもそもの始まりは、長らく独立を求めてきたカタルーニャで、2017年に実施された住民投票だ。憲法違反と判断されながらも、カタルーニャ州政府は独立の是非を問う住民投票を敢行し、一方的に「独立宣言」を行った。

この住民投票に絡んで、19年にカタルーニャの独立派政治家7人と活動家2人が実刑判決を受け、地元で大規模な抗議運動が起きた。前年、首相に就任していたサンチェスは緊張緩和のため、残りの刑期を免除する措置を発表した。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中