最新記事
韓国政治

窮地の与党が頼るのは、全羅道育ちの「青い目の韓国人」医師...若手造反を食い止める「特効薬」になるのか?

To Heal Ruling Party Rifts

2023年11月14日(火)12時55分
イ・ウヌ(ジャーナリスト)
印曜翰(イン・ヨハン、ジョン・リントン)

与党「国民の力」の革新委員会委員長に就任した印は、アメリカ人家庭出身で、韓国で生まれ育ち、韓国に帰化した。医学教授でもある YONHAP NEWS/AFLO

<来春の総選挙を前に危機感が高まり、韓国でよく知られたアメリカ系韓国人・印曜翰に党改革を託した与党「国民の力」...その「異色の助っ人」効果は?>

韓国の政権与党「国民の力」が党勢挽回の望みを託したのは、政界とは無縁な「改革の顔」だった。

10月11日に行われた首都ソウルの西端に位置する江西区の区長補欠選挙で、与党候補は最大野党「共に民主党」の候補に得票率17ポイント超の大差をつけられて敗退。この選挙は来年4月の総選挙に向けた試金石とみられていただけに、与党にとっては痛恨の敗北となった。

韓国では地方の有権者は支持政党に忠実で、南西部は共に民主党、南東部は国民の力という勢力図は不動だ。だがソウルの有権者は時の政権の実績を見て選挙のたびに支持政党を替える。今回は与党に厳しくも明確な審判を下した。

党内の大改革の一歩として、与党指導部は10月23日、党革新委員会のトップに異色の人物を据えた。延世大学セブランス病院の国際診療センター長で家庭医学科の教授である印曜翰(イン・ヨハン、ジョン・リントン)。思い切った人選だが、賢明な動きと言える。

印は共に民主党の強固な地盤・全羅道でアメリカ人家庭に生まれた。祖父母は日本の植民統治下で貧しい人々に医療を提供。父親は朝鮮戦争で戦い、印自身は民主化運動に参加し、北朝鮮の結核対策を支援した経歴を持つ。

【動画】「青い目の韓国人」印曜翰(イン・ヨハン、ジョン・リントン) とは?

印とその家族の物語は韓国ではよく知られていて、一家はリベラル派にも好感を持たれている。その印に党改革を託したのは、党指導部の抜け目ない計算にほかならない。

裏を返せば、国民の力は今、切実にフレッシュな人材を必要としているということだ。委員長就任が決まると、印は記者団にこう語った。

「愚かなことを聞かれた。国民の力か共に民主党か、どちらを支持しているか、と。私は帰化した韓国人で、全羅道で育ち、全羅道を心から愛している。ただそれだけだ」

印には、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領や党の大物が言いたがらないことを言い、やりたがらないことをやってもらう。それが有権者の「政権与党離れ」を止めるために党指導部が編み出した戦術なのだろう。

実際、多くの韓国人は変化を実感している。

「青い目の韓国人」が記者会見に臨み、流暢な韓国語で党の大物に忖度せずに言うべきことを言えばそれも当然だ。印は党人事で大ナタを振るうだろう。何しろ「妻と子供たち以外は全ての人を替える必要がある」と記者団に語ったのだから。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中