最新記事
米中関係

【スクープ】中国のAI研究者に米政府が3000万ドルを渡していた...朱松純の正体、あの「千人計画」との関係

US Funded Top Chinese Scientist

2023年11月10日(金)11時48分
ディディ・キルステン・タトロウ(国際問題・調査報道担当)

20年に中国に戻った後、朱はさっそく「北京通用人工智能研究院(BIGAI)」を創設した。彼は国政助言機関「中国人民政治協商会議」の一員として、最先端のAI研究を「科学技術分野における今後10~20年にわたる国際競争の戦略的最高峰」と位置付ける提案書を出している。

その提案書で朱は、最先端AIの影響力を「情報技術分野における『原子爆弾』に匹敵する」ものと表現し、「わが国が真に普遍的な人工知能の実現をリードできれば国際的な技術競争の勝者となるだろう」と強調している。

彼は昨年12月に設立された「北京大学武漢人工智能研究院」の首席研究員でもある。

匿名を条件に取材に応じた米国防総省の当局者は、朱への助成金拠出の事実をおおむね認めたが、「助成金の対象には複数の研究者が含まれ、朱に渡った分はごく一部」だと語る。「助成金は研究機関に提供されるもので、対象になるのは一個人ではなく複数の研究者」とも付言した。

さらに、助成金を通じた国際協調には世界中から最高の人材を集めることができるなどの「利点」があり、現にアメリカで科学技術系の大学院を修了した中国人留学生の90%は卒業後も米国内に残っているという。

こうしたオープンな研究環境から斬新なアイデアが生まれ、それが自国の利益になっていると述べた。

NSFは過去に、朱が筆頭研究員または共同筆頭研究員とされている13件の研究プロジェクトに総額500万ドル以上の助成金を提供している。対象となったのはコンピュータービジョンや認知機能に関する研究で、AIを人間並みのレベルに引き上げるには必須の技術とされるものだ。

しかし朱の論文や共同研究者、海外での所属先などを調べたところ、利益相反の疑いが生じた。それでNSFとしては、彼の立ち位置に懸念を抱くようになったという。

技術流出は将来に影響

NSFのカイザーによれば、「千人計画のメンバーで正式な所属先や資金源、海外で取得した特許を公表していない研究者」を調べたところ、朱の名前が浮上した。ただし朱の情報を諜報機関や司法当局と共有した時期については明らかにしなかった。

UCLAによれば、朱を筆頭研究員とするプロジェクトに対する助成金の総額は過去15年で約2200万ドルに上る。

同校の広報担当者リカルド・バスケス名義の声明によれば、朱がUCLAを退職したのは中国に戻ってから2年後の22年10月。現在はいかなる団体からの助成金も彼に渡していないという。

だがUCLAのウェブサイトなどによれば、朱は現在も同校の名誉教授であり、AI研究所に在籍する博士課程の学生(その多くが中国人)を指導する立場にある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中