メスと交尾するためならその子供を食べてしまう...... オスのツキノワグマに装着したカメラがとらえた衝撃映像
クマが登山道を使って移動することが初めてわかった
回収できたカメラの中には、未知の光景を撮影していたものもあった。初期のころのカメラで撮った動画は、今見るととても粗いのだが、移動するのに登山道を使い、山小屋や標識の横を通っていることなどが初めてわかった。
また、これまで木の幹についた爪痕やクマ棚から、クマが木に登ることはわかっていたが、実際にその様子も映像で確認できた。あのずんぐりむっくりした体形からは想像がつかないくらい、ヒョイヒョイヒョイッと軽やかに登るのである。
食べることすら忘れてメスを見張るオス
2018年ごろからはハイビジョンカメラ付きの首輪も登場し、足尾や奥多摩のクマに装着して繁殖行動を観察することになった。
普段はオスもメスも単独行動をするのだが、繁殖期になると10〜20m先にメスの姿が見えるようになり、距離がだんだん近付いてきて、そのうちメスのすぐそばにオスが寄り添うようになる。
そしてメスが木の上でリラックスして木の実を食べているのを、オスは木の下で何も食べずに待っている。メスに逃げられないように食べ終わるまで見張っているのだ。
つまり、オスは食べることすら忘れてメスと一緒にいることを優先している。食欲よりも性欲が勝っているのである。
以前から繁殖期の6〜7月にクマを捕獲すると、オスが傷だらけだったり、ガリガリに痩せていたりするのには気づいていた。メスをめぐってのオス同士の戦いが熾烈しれつなのだろうし、きっと寝食を忘れてメスを追いかけていたのだろうとは思っていた。
カメラのおかげでそれがはっきりとわかったのは大きな収穫だった。
オスが子グマを食べている衝撃的な映像も撮れた
ほかにもカメラは衝撃的な映像をとらえていた。共食いである。オスに装着されたカメラがメスを映し出したあと、子グマがオスによって食べられているさまが映し出されていたのだ。
これは、子連れの母グマと交尾するため、オスが子グマを殺しているのだ。メスが子グマを生むのは1月か2月の冬眠中で、5月の上旬の冬眠穴から出てくる時期になると子グマは2〜3kgにまで成長する。そして8〜9月ごろまではメスは授乳をしているのだが、6〜7月の繁殖期にオスに遭遇すると、オスはメスと交尾をしたいがために子グマを殺し、メスの発情を促すことがあるのだ。
海外では0歳の子グマの死亡は8割から9割が繁殖期に発生し、その多くがオスによる子殺しだろうと推定されている。
小池伸介(こいけ・しんすけ)
ツキノワグマ研究者
1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物―動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地においてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(共著・文一総合出版)など。
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