最新記事
中東

イスラム組織、イスラム勢力、イスラム聖戦...日本メディアがパレスチナ報道に使う言葉を言語学的視点から考える

避難民用のテント

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の運営する避難民用のテント(10月23日、ハンユニス) Ibraheem Abu Mustafa-REUTERS

<ハマスの名称はアラビア語の「イスラム抵抗運動」の頭文字から構成されているが、日本のメディアは「イスラム組織」と説明する。頻出する「イスラム●●」という言葉は、ときに実情と全く違う意味を伝えている>

パレスチナとイスラエルとの武力衝突について、日本のメディアは真逆の意味を伝えている。問題を言語的に表現していく上で、客観を主観から切り離さず当事者視点を重視しない傾向がある。わざとではないと思いたいが、多くのニュースや報道番組に使用される言葉を見て、意図的に事実を曲げて伝えているとしか思えない。

この3週間でイスラエルと、パレスチナ人の抵抗運動の主力である「ハマス」との武力衝突が激しさを増していて、破壊の連鎖は止まりそうにない。世界各国のメディアも刻一刻と変化するその情勢を伝えるのに必死となっている。もちろん、日本のメディアも例外ではない。テレビやラジオ、ネット配信動画などを通じてそれぞれの国民に実情を語りかける。そこで最大の武器となるのは、言葉である。言葉には、出来事に対する人の意識や認識を誘導する力がある。

 

言葉は「社会・文化を映し出す鏡」と言われている。若い頃はあまり実感していなかったが、最近は本当にその通りだと思う。

「観点」と「視点」の違い

ハマスとイスラエルの武力衝突について、この1週間で、当方が調べた日本メディアのタイトルや文面には、次のような言葉や表現が多用されていた。


イスラム組織、ハマス、大規模攻撃、実効支配、拉致、軍事衝突、ガザ地区、イスラエル軍、カッサム旅団、戦闘員、人質、テロ行為、流血、越境攻撃、地上侵攻 など

これらの単語や表現は特定の目線の下で意味が形成されるものである。

語彙の意味的パターン(性質)は2つのカテゴリーに分けることができる。1つは行為そのものを表現しているが、その行為に至るまでの背景を反映しないものである。パレスチナ情勢で例えると、「攻撃」や「テロ」、「衝突」のような単語が一例となる。

もう1つのパターンは、出来事や行為の背景を反映するものだ。このパターンはアラブメディアに多く見られ、イスラエル軍は「イスラエル占領軍」とされる。日本や欧米メディアが使用する「実効支配」もこれに当てはまる。

そもそも、単語が表現する意味のメカニズムはどうなっているのだろうか。語は現実世界にある物事の側面を捉えて名付けたものであるが、この現実世界にある物事を捉えた側面(語の意味=語義)と名付けたもの(語形)との関係となる。

その上で、言葉というのは語形から単語の意味を、また、語義(言葉の意味)から語形を思い起こすことができるものである。そして、人が言葉の意味を思い起こす際に「視点」と「観点」がその意味の捉え方や受け止め方に大きく影響する。

「観点」と「視点」という言葉はどちらも物事を見る立場を意味しているが、本来の意味は少し違う。その違いをわかりやすく言うと、観点は「考え方」であり、視点は「見方」である。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新たな経済対策、減税と給付が骨格との考え変わりない

ビジネス

消費支出、3月は2.1%増で予想上回る 節約志向で

ワールド

原油先物は小動き、米中協議控え

ビジネス

川崎重、26年3月期は1.3%増益予想 市場予想下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中