イスラエル軍もハマス軍事部門も「直面したことがない事態」...イスラエル精鋭部隊「サエレット・マトカル」はどう動くのか?

A RESCUE OPERATION LIKE NEVER BEFORE

2023年11月2日(木)14時25分
トム・オコナー、デービッド・ブレナン(いずれも本誌記者)

アビタルの見立てでは、「人質の過半数」を救出できれば「上出来」だ。

アビタル自身も、サエレットの1人として絶望的な状況で何度も成功を収めてきた。1994年には、その数年前にイスラエル人パイロットが拉致された事件への報復として、レバノンのシーア派政党アマル運動の幹部ムスタファ・ディラニを自宅から拉致するという劇的な作戦の指揮を執っている。

夜間にヘリコプターでレバノンのベカー高原に侵入し、当地の武装勢力ヒズボラやシリア軍の警戒の目をかいくぐってディラニを拉致した。

親族との銃撃戦でサエレット隊員1人が軽傷を負ったが、敵との大きな軍事衝突に至ることはなく、作戦は大成功だったとされる。

アビタルによれば、自身の指揮下でこうした作戦が行われる際は首相だったイツハク・ラビンと「密な連絡」を常に保っていた。ちなみにラビン自身はその1年後、パレスチナ人との和平合意に反対するイスラエルの極右民族主義者に暗殺された。

もちろん現在のネタニヤフも、ガザ侵攻作戦のあらゆる側面を統括する責任者として中心的な役割を果たすことになる。アビタルの言葉を借りれば、「この種の作戦が失敗すれば代償は大きく、軍隊だけでなく政治の責任が問われる」からだ。

しかしアミドローが述べたように、作戦の詳細を詰めるのは現場の指揮官の役目だ。アビタルに言わせると、「指揮官は自分の計画が承認されるよう、首相や国防相にうまく売り込む必要がある」。

ちなみにベカー高原への急襲も、首相の要望で実行を1日ずらしたそうだ。

あの国の意思を最終的に決める人たちに近い筋なら誰もが知っているはずだが、ガザ地区への大規模な軍事侵攻はもはや避け難い。

05年にガザから撤退して以来、イスラエル軍はあのパレスチナ人の土地で少なくとも3度の地上戦を経験している。だが今回は首相自身が、軍事組織としてのハマスの「壊滅」を目指すと公言している。そうであれば、今までとは次元の異なる戦闘になるのは目に見えている。

ちなみに国軍の報道官リヒャルト・ヘクトは、サエレットが出動する可能性についてコメントを控え、人質の奪還は「諜報機関と政府指導部の最も機密性の高い部分が扱う事項であり、それ以上のことは私には言えない」と述べている。

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