最新記事
注目ニュースを動画で解説

パレスチナ問題を見誤った世界の「3つの的外れ」...ハマスの奇襲に見る「新しい中東」構想の欠陥【アニメで解説】

2023年10月30日(月)17時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
ハマス奇襲3つの要因

Newsweek Japan-YouTube

<ハマスの奇襲攻撃は中東と世界の秩序をどう変えるのか。3つのポイントから検証したアニメーション動画の内容を一部紹介>

イスラエルをパニックに陥れたハマスの大規模攻撃は、「新しい中東」構想の欠陥をあぶり出した。世界はパレスチナ問題をどう「見誤った」のか──3つの点を検証する。

本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「パレスチナ問題を見誤った世界の「3つの的外れ」...ハマスの奇襲があぶり出した「新しい中東」構想の欠陥【アニメで解説】」の内容をダイジェスト的に紹介する。

 
◇ ◇ ◇

イスラエルとハマスの間では何年に1度か武力衝突が発生しているが、その内容はといえば毎度おなじみのものだった。

挑発があり、ハマスがロケット弾を撃ち込み、イスラエルが空爆で反撃する。エジプトが間に入って話をつける。その結果、つかの間の平和が戻る──という繰り返しだ。

ところが、ハマスが「アル・アクサーの洪水」作戦と呼ぶ今回の攻勢は違った。

nwyt231027_3.jpg

どうしてこんな悲惨な展開になったのかと驚く人たちは、そもそも中東地域、とりわけパレスチナの地をめぐる複雑な政治力学を見誤っていた。

イスラエルと中東各国の関係が改善に向かえば、パレスチナ問題の比重は自然に軽くなるという思い込みは間違いだった。問題はイスラエルによる占領だとか、イランの振る舞いもアメリカの外交努力で改善できるといった安易な想定に根拠はなく、およそ的外れだったのだ。

nwyt231027_5.jpg

1つ目に、一部の中東諸国がイスラエルとの国交樹立を望んでいるのは事実だが、大多数のアラブ人にとっては依然としてパレスチナ人の権利問題が最重要ということ。

イスラエルは1967年からヨルダン川西岸を占領しており、エジプトと手を組んで、ガザ地区をいわば軍事的緩衝地帯と位置付けてきた。そこで暮らすパレスチナ人は暴力と収奪にさいなまれ、人間性を否定されている。

パレスチナ人の安全と権利、正義の確保は、イスラエル国民の暮らしの正常化にも欠かせない要件だ。この点はアメリカ政府も理解していて、以前からイスラエルに真摯な対応を求めてきた。

しかし、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化を急ぐあまり、パレスチナの現状に目をつぶってしまったのだ。

nwyt231027_8.jpg

2つ目は、ハマスの言う「占領地」の範囲だ。

パレスチナを支援する世界中の人々が占領をやめてほしいと望んでいるが、ハマス軍事部門の司令官ムハンマド・デイフにとって「占領地」はパレスチナ全体のことを意味する。つまり1948年のイスラエル建国時に国際社会がユダヤ人に与えた土地も、だ。

彼らが今回、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地ではなく、イスラエル領の都市に攻め込んだことからもハマスの目標は明らかだ。

アラブ世界の大半はハマスの手口を支持していないが、国交正常化に関する世論調査を見る限り、彼らもイスラエルを非合法な存在と見なしている。この点はハマスの主張と大差ない。今回の作戦は、アメリカ主導の「新しい中東」構想を揺るがす根本的な問題を露呈させた。

nwyt231027_10.jpg

3つ目は、アメリカが外交でイランの行動を変えられるという考えが見当違いだったということ。

ハマス側は、イランが今回の作戦に武器や資金、装備を提供したことを認めている。イランはイスラエルとの国交正常化について各国に警告しており、この点でもハマスとの利害は一致している。

nwyt231027_12.jpg

想定外の規模の攻撃を受けたイスラエルとしては、ガザ地区を完全に封鎖してハマスの息の根を止めるために戦う他になくなった。

その先について、本音の部分では、イスラエルもガザ地区には手を出したくないはずだ。占領の意図はなくても、足を踏み入れたら最後で、周辺のアラブ諸国との関係改善どころではなくなる。実は、これこそがイラン政府の望むところなのだ。

nwyt231030_3.jpg

■詳しくは動画をご覧ください。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中