最新記事
中東

イスラエル奇襲攻撃の黒幕、ハマスのデイフ司令官とは何者か?

2023年10月12日(木)20時55分
ロイター

ハマス軍事部門を率いる影の男

ヨルダン川西岸と呼ばれる長さ100キロ、幅50キロの地域では、この1年以上混乱が続いている。同地域は1967年にイスラエルに占領されて以来、イスラエル・パレスチナ紛争の中心地だった。

デイフ氏によれば、ハマスは国際社会に対し「占領という犯罪」を終わらせるよう求めたが、イスラエルは挑発を強めたという。同氏はさらに、ハマスは過去にイスラエルに対し、パレスチナ人捕虜の解放に向けた人道上の取引を提案したが、それも拒否されたと述べた。

「イスラエルによる占領の暴虐と、国際法や決議を否定する姿勢、さらには米国や西側諸国の支持と国際社会の沈黙に鑑みて、我々はこうした状況すべてに終止符を打つことを決意した」と、デイフ氏は宣言した。

ハマス軍事部門を率いるデイフ氏は、第1次中東戦争(1948年)の後に設置されたハーン・ユニス難民キャンプで1965年に誕生し、ムハンマド・マスリと名付けられた。87年に始まった最初のインティファーダ(パレスチナ人による反イスラエル抵抗運動)の際にハマスに参加し、その後ムハンマド・デイフという名で知られるようになった。

ハマス関係者によれば、デイフ氏は89年にイスラエルに拘束され、約16カ月拘束された。

デイフ氏はガザのイスラム大学で物理学、化学、生物学を学び、理学士の学位を取得した。芸術にも親しみ、大学のエンターテインメント委員会を率いて、喜劇の舞台への出演も経験した。

ハマスで頭角を現したデイフ氏は、ハマスの地下トンネル網を開発し、爆弾製造の能力を高めた。数十年にわたりイスラエルで最も重要な指名手配者リストの最上位にあり、自爆テロで数十人のイスラエル人を殺害した責任者として名指しされている。

デイフ氏にとって、自らの存在を隠しておくことは生死に関わる必須要件だった。ハマス関係者によると、同氏はイスラエルによる暗殺未遂で片目を失い、片足に重傷を負ったという。

デイフ氏の妻と当時生後7カ月だった息子、同じく3歳の娘は、2014年にイスラエルの空爆で死亡した。

ハマス軍事部門のトップという立場でありながら生き延びたことで、デイフ氏はパレスチナの民族的英雄としての地位を獲得した。映像では覆面をしているか、影だけが映し出される。ハマスに近い関係者によると、同氏はスマートフォンなど現代のデジタル技術を使っていないという。

「捉えどころがない、影の男だ」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中