最新記事
中央アジア

中央アジアでうごめく「ロシア後」の地政学

Players Are Reconsidering Their Bets

2023年9月25日(月)13時00分
ユージーン・チャオソフスキー(ニューライン研究所研究員)
アゼルバイジャンはナゴルノカラバフにあるアルメニア軍基地を攻撃(アルメニア側は軍事施設はないとしている)

アゼルバイジャンはナゴルノカラバフにあるアルメニア軍基地を攻撃(アルメニア側は軍事施設はないとしている) DEFENSE MINISTRY OF AZERBAIJANーAP/AFLO

<ナゴルノ攻撃を招いた「ロシア不在」、南カフカスだけではなく中央アジアでも米中と地域大国の駆け引きが始まった>

3日で終わるはずのロシアの対ウクライナ戦争が1年半以上続くなか、すぐ近くで別の緊張が高まっている。黒海とカスピ海に挟まれた南カフカス地方と、カスピ海の東側に広がる中央アジアで、新たな安全保障リスクと外交政策の大転換が起きているのだ。

南カフカスでは、アゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフの重要な補給路を数カ月間遮断したことをきっかけに、長年の対立が再燃。9月19日にはアゼルバイジャン政府が同地に対する「対テロ作戦」を宣言した。

ナゴルノカラバフは人口の大部分をアルメニア人が占め、アルメニアの影響が強い。このためアゼルバイジャンとアルメニアがソ連を構成する共和国だった時代から、その分離独立は大きな問題になっていた。

ソ連の崩壊で独立を果たすとき、アゼルバイジャンとアルメニアは本格的な紛争に突入し、1994年にアルメニアが勝利を収めた。アゼルバイジャン国内に位置するナゴルノカラバフも91年に独立を宣言している(しかし国際的な承認はほとんど得られなかった)。

これに対して、アゼルバイジャンは2020年9月からの軍事衝突で、ナゴルノカラバフと周辺の一部地域の実効支配を奪還。この紛争はロシアの仲介でひとまず停戦合意が結ばれたが、その履行をめぐるいざこざは続いていた。

アゼルバイジャンとしては地域全体の経済発展を図るとともに、アルメニアの西側に位置する飛び地ナヒチェバンと、その西隣のトルコにつながる鉄道や道路を整備したい(アゼルバイジャン人のほとんどはトルコ系民族)。そのためにはアゼルバイジャンとナヒチェバンの間に横たわるアルメニアを安全に通過できなければいけない。一方、アルメニアも自国の飛び地と考えているナゴルノカラバフへの安全なアクセスを求めているが、両国の政治交渉は具体的な解決策を生み出せずにいる。

さらに問題を複雑にしているのは、ロシアの存在だ。ソ連の継承国であるロシアは、この地域の盟主的な立場を維持したがっているが、必ずしも平和を守ることに関心はない。20年の停戦後に2000人のロシア兵が平和維持部隊として派遣されたのに、アルメニアとアゼルバイジャン双方による停戦違反が止まらないのはそのためだ。

お知らせ
【3/26、3/29開催】編集部に感想・提案をお寄せください(オンライン読者交流会)
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中