「巨象」インドのヒンドゥーな実像...3週間の滞在で見た「真の顔」
THE NASCENT SUPERPOWER
8月にインドの探査機が世界で4カ国目に月面への着陸を成功させたことを喜ぶBJPの支持者たち ANUSHREE FADNAVISーREUTERS
<モディ政権はファシストでナショナリスト? 新興大国の誇りと野心と少しの危うさを知る>
本当はヒマラヤの山麓を3週間かけて歩き回るつもりで、インド軍の元将校2人に案内役を頼んでいた。ところがムンバイのホテルに着いて2日目の朝、部屋の電話が鳴った。
「カール様、お車が来ております。それに2人の......ガイドさんも」
「車? ガイド? 何の話だ?」
「お車は1階で、待っています」
ああ、と私は思った。これが元CIA工作員の宿命か。仕方ない。私は階下へ向かった。
どうやらナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)政権の高官の誰かが私のインド入りに気付き、せっかくだから見学ツアーに「招待」しようと決めたらしい。後に彼らは、私にこう告げた。アメリカ・メディアの描くBJP像やモディ首相像には大いに不満だと。だから私に「本当のインドがどんなか」を見せ、BJP政権の目指すところを教えてやろうというわけだ。
自分たちは一部の有識者が言うほど不寛容な政府ではないし、ファシスト的でも反イスラムのナショナリストでもないと彼らは主張した。そうした見方は、社会主義者でエリートで英語を話す野党・国民会議派による偏見に満ちた言い分だとも。
彼らは3週間にわたって私をインド西部と北部のあちこちに案内した。外交官でも見ることができないような権力の回廊を私に見せ、インドの権力層がインドをどう見ているのか、そしてモディ政権が国のために何を望んでいるかを説明した。
「ヒンドゥトバ」とは何か
インドは1000年もの間、イスラム教徒やムガール帝国、次いで大英帝国に支配され、ヒンドゥー教徒は従属を強いられてきた。だがモディ率いるBJP政権にとってのインドはヒンドゥー教徒の国だ。
それは「ヒンドゥトバ(ヒンドゥー至上主義)」と呼ばれる思想で、ヒンドゥー教こそインド文化と社会の基盤と見なす。20世紀前半の独立闘争の時期に芽生えた思想だが、BJPは1980年代以降、このヒンドゥー至上主義を掲げ、これこそが「インドの魂であり国家の基盤」だと位置付けている。
ライバルの国民会議派は、この思想をインドの多文化主義や寛容性、独立後に採用した民主主義に反する危険なものと捉えている。だが多数派のヒンドゥー教徒はこの思想によって力を得たと感じているようで、モディとBJPは世論調査で一貫して50~68%の支持を得ており、来年の総選挙ではモディが3選を果たす可能性が高い。
だがナショナリズムは危険な不寛容を生む可能性もある。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、モディの首相就任以降、インド政府による人権侵害に対する抗議行動が増えているとし、反対意見を抑え込むために政府が暴力を使う例も増えたと指摘している。ただしBJPはそんな批判を意に介さない。