最新記事
ウクライナ戦争

これはもはやジェノサイド...ウクライナを歴史から抹消、若い血をロシアに移植──連れ去りとロシア化教育にみるプーチンの野望

GENOCIDAL INTENT

2023年8月1日(火)12時50分
アジーム・イブラヒム(米ニューライン研究所シニアディレクター)
配給を待つ市民と警戒に当たるロシア兵(昨年3月、マリウポリで)

配給を待つ市民と警戒に当たるロシア兵(昨年3月、マリウポリで) ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

<ウクライナは必ずこの戦争で勝利を収め、子供たちの連れ去りも食い止めなければならない。本誌「ルポ ウクライナ子供拉致」特集より>

ロシアのウクライナ侵攻がジェノサイド(集団虐殺)戦争であることが次第に明らかになっている。ジェノサイド目的で断固として遂行されるウクライナ戦争は、ウクライナの人々と国家だけでなく、ウクライナ人の国民性そのものに対する攻撃だ。無差別殺人や集団レイプに加え、ロシアによるウクライナの子供たちの連れ去りも明らかになっている(1948年のジェノサイド条約は、集団の児童を他の集団に強制的に移すことをジェノサイドと規定)。

昨年12月24日付のワシントン・ポスト紙はロシアの計画を詳細に報道した。ウクライナの大勢の子供たちを船でロシアに移送し、ロシア人の養子にしてロシア人として育て、ウクライナを消滅させるというものだ。

こうした話は、過去1年間にロシアによる占領を経験したウクライナ各地にあふれている。ロシアの侵攻で親を殺された孤児までもがロシア軍部隊によってロシアに送られ、「おまえたちは最初からロシア人であって、ウクライナ人だったことなどない」と言い聞かされるという。ロシアのジェノサイド戦争をより大きな枠組みで文化的に解釈すれば、ウクライナは今も昔も存在せず、歴史から抹消されるべきだ、というのがロシア当局の考えなのだ。

ニューライン研究所とラウル・ワレンベリー人権・人道法研究所(スウェーデン)は昨年5月、ロシアによるジェノサイドの法的側面に関する共同報告書で、ジェノサイドの文化的側面にも言及した。「ロシア高官はウクライナの言語や文化や国民性の存在を繰り返し否定し、ウクライナ人を自任する人々はロシア人とウクライナ人の『一体性』を脅かすとほのめかしている」

ロシア当局のこうした考え方がピークに達したのは、2014年にウクライナ南部のクリミアを併合し、東部ドンバス地方で開戦してからだ。ロシアの国営メディアや政府系シンクタンクは、ロシア人とウクライナ人は「兄弟」だという考えに基づく報道を続けた。

ロシア政府直属のシンクタンクであるロシア戦略調査研究所(RISS)は14年、クリミアとドンバスの一部制圧を受けて「ロシア世界の一体性のため」に「ウクライナはロシアである」と題した論文集を発表。ある寄稿は「ウクライナ人の国民性」なる概念を「ロシア南部特有の欧米主義」と呼んだ。自身をウクライナ人だと考える人々は精神を病んでいるか外国かぶれだ、と主張するためのゆがんだ表現だ。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中