これはもはやジェノサイド...ウクライナを歴史から抹消、若い血をロシアに移植──連れ去りとロシア化教育にみるプーチンの野望
GENOCIDAL INTENT
「ロシア化」されるウクライナ
ウクライナ文化の存在自体を否定したいという願望は強いものだった。16年3月、RISSのアナリストのオレグ・ネメンスキーは「ウクライナ住民の大多数はウクライナ文化とは無関係」と主張。この世界観では、存在するのはロシア文化のみで、ウクライナ住民には彼らが自分たちの文化だと主張するものとの接点は全くない。
これらがことごとくウラジーミル・プーチン大統領に影響を与えた。プーチンは21年7月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文で、両者は「一つの民族」と明言。「現在のウクライナ人はソ連時代の産物」であり「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップにおいてのみ可能だ」と書いた。ウクライナの政府と国民があくまで国家の独立性と文化の完全性にこだわるなら、彼らはネオナチだとも主張した。
22年2月のウクライナ侵攻直後からロシア軍はウクライナ文化の弾圧を開始。占領地の街頭に掲げられたウクライナの国民的詩人タラス・シェフチェンコの肖像は引き裂かれるか覆い隠された。町名標識はウクライナ語からロシア語表記に、色もウクライナ国旗の青と黄からロシア国旗の白・青・赤に塗り替えられた。
同年9月、プーチンはドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州をロシアに併合することを一方的に宣言。その際の演説で、過去8年間にわたりプーチン政権とその政策を支配してきたジェノサイド的主題に立ち返った。「自らの文化、宗教、伝統、言語によって自分をロシアの一部だと見なし、先祖代々、何世紀にもわたって統一国家で暮らしてきた何百万もの人々の決意ほど強いものはない。真の歴史的祖国へ戻るという彼らの決意ほど強いものはない」
ロシア軍の占領地域(現在は撤退中)で実施された偽りの住民投票の結果、そこで暮らす人々はウクライナ人ではなくなった。ロシア政府から見れば、彼らはロシア人であり、そうでないと主張する人々はナチス、もしくは頭がおかしいとされる。