最新記事
ウクライナ戦争

これはもはやジェノサイド...ウクライナを歴史から抹消、若い血をロシアに移植──連れ去りとロシア化教育にみるプーチンの野望

GENOCIDAL INTENT

2023年8月1日(火)12時50分
アジーム・イブラヒム(米ニューライン研究所シニアディレクター)

急激に進む高齢化も根底に

ロシアの占領下でウクライナ系住民が受けた残虐行為の全貌は不明だ。マリウポリで何が起きたのかは国際調査を待たねばならない。ロシア軍に連れ去られたウクライナの子供たちの総数も不明のままかもしれない。ロシアの学校で再教育を受け、ロシア人の両親と名前を新たに与えられ、ロシアでの生活が長引くほど、ウクライナとのつながりは薄れる──それこそがロシアのジェノサイド政策の狙いだ。

私たちが集めた目撃証言によれば、ロシア軍の占領地域ではウクライナ関連のタトゥーをしていた男性らは処刑され、ウクライナ語で授業をしようとした教師はロシア軍に拷問された。併合地域の至る所で、自分たちはウクライナに住むウクライナ人であり、自らの言語や文化や歴史を大切にし表現する権利があると信じる人々がひどい仕打ちを受けた。昨年10月にはヘルソンでコンサート出演を拒んだウクライナ人指揮者がロシア兵に殺されている。

ウクライナが軍事的勝利を収め、併合を拒絶するだけでは不十分だ。このジェノサイド戦争の本質は今も変わらない。ウクライナ全土が奪還されても、ロシアのエリート層は考えを改めそうにない。

最悪なのは子供の連れ去りだ。ロシアはウクライナの子供たちを誘拐してロシアに強制移送している。彼らは新たな養父母とロシアのパスポートを与えられ、次第にかつての祖国を嫌い、さげすむようになる。

子供の連れ去りと再教育によるジェノサイドは、ロシアの侵略者が一人残らずウクライナの領土を去っても当分続くだろう。ロシアが敗れてもロシアのエリート層はジェノサイドにつながった文化的物語を信じ続け、連れ去られた子供たちが祖国に帰ることもないだろう。

連れ去りの根底にはロシアの急激な高齢化という厳しい現実もある。何万人もの若者がウクライナで戦死し、最も積極的で将来性のある国民は動員を免れようと国外へ。老い先短いプーチンは死にかけた祖国に若い血を「移植」しようと焦っている。

ウクライナは必ずこの戦争に勝ち、子供たちの連れ去りも阻止しなければならない。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国は「経済的大惨事」に、関税違憲判断なら トラン

ワールド

ウクライナ当局、国営原子力企業が絡む大規模汚職捜査

ビジネス

NY外為市場=円下落・豪ドル上昇、米政府再開期待で

ワールド

再送-〔マクロスコープ〕高市氏、経済対策で日銀に「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中