「偏った報道に違和感...」タイタン号のクルーに「なりそびれた」ジャーナリストの告白
I Was Almost on the Titan
深海ツアー中に消息を絶ったタイタン号。水圧で大破したとみられる OCEANGATE EXPEDITIONSーHANDOUTーREUTERS
<なぜ私は生きているのか──潜水艇の悲劇をきっかけに見つめ直した生きることの意味>
6月19日午前9時59分、科学誌サイエンティフィック・アメリカンの編集者からメールが届いた。「けさ潜水艇が消息を絶ったという記事を読み、あなたの無事を確かめたい一心でメールしました」
私は両手で口を覆って息をのんだ。「大変」と、そばにいた夫ジェフに言った。「潜水艇が行方不明ですって! 何てこと!」「君が乗るはずだったやつか?」。夫も私も鳥肌が立った。ニュース番組はその話題で持ち切りになり、私たちは最善を祈りながらテレビにクギ付けになった。
全ての始まりは1月。業界のメールマガジンに出ていた広告が私の目に留まった。沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を潜水艇タイタン号に乗って見に行く8日間のツアーで、深海の生態系とそれが地球に及ぼす影響を調査する「ミッションスペシャリスト(市民科学者)」を募集するという。
私はすぐにツアー運営会社のオーシャンゲートにメールした。ツアー内容、現地までの船、潜水艇と参加メンバー、ミッションスペシャリストの役目、科学調査の内容......。情報収集のため同社の社内広報責任者と何カ月もメールをやりとりした末、必ず記事にすることを条件にようやく席を確保。タイタン号でタイタニック号探索ツアーに参加するジャーナリストはあなたが初めてだと言われた。
私は早速、記事の企画書作りに着手した。この手のツアーにはさまざまな切り口が考えられた。「沈没したタイタニック号を間近で見るために25万ドル払う?」「市民科学者がタイタニック号探索ツアーで深海の神秘の解明に貢献」「タイタニック号探索ツアーで深海の意外な生物多様性が明らかに」といった具合だ。
全国規模の雑誌やウェブサイトが6つほど、それぞれ違った切り口に興味を示した。あんなに一生懸命になって記事掲載の確約を取り付けようとしたのは生まれて初めてだった。まだ300人くらいしか行ったことがない場所へ行き、本や映画で取り上げられてきた歴史の一部を目撃し、神秘的で魅惑的な深海の生物をこの目で見られるなんて、考えただけでぞくぞくした。
ただし一つ問題があった。参加費5000ドルだ。仕事の経費は収入の範囲内でというのが私のルールだった。本来ミッションスペシャリストのツアー参加費は25万ドルだが、私は全国規模のメディアでの記事掲載を取り付ける(あわよくば記事を読んで25万ドル払ってツアーに参加したい人たちが出てくる)前提で、宿泊と食事代だけの5000ドルにまけてもらった。
ツアー内容についてやりとりするなかで、オーシャンゲートのストックトン・ラッシュ創業者兼CEOや、フランス人の潜水艇操縦士でタイタニック号沈没現場に30回以上潜っているポールアンリ・ナルジョレが同乗予定だと知った。2年前には、スペースシャトルに5回乗り組んで40時間を超える船外活動を行い、エベレスト登頂も果たしたNASAの宇宙飛行士も参加したという。