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台湾有事のタイミングを計る「一島三峡」とは? 中国侵攻に日本はどう備えるか

ONE ISLAND, THREE WATERWAYS

2023年7月14日(金)11時30分
野嶋 剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)

通常、台湾有事といえば、台湾海峡で起きる中台間の衝突をイメージする。ただ、台湾は四隅を海で囲まれた島であり、西側(台湾海峡側)だけを制圧して終わり、ではない。東側に台湾軍が立て籠もり持久戦に持ち込まれると、台湾占領は失敗に終わりかねない。東側と西側には3000メートル級の台湾山脈が立ちはだかり、中国から西側を飛び越えてさらに東へと空や陸の戦力を展開させることは困難を極める。となると、北側と南側の二峡(宮古海峡とバシー海峡)の2ルートに分けて台湾東側へ海・空軍力を速やかに展開できるかどうかが鍵となる。

先に台湾東部の海・空域を押さえられれば、台湾空軍の重要基地が集中する東側の戦力の自由をそぎ、西側と東側の二正面作戦を台湾軍に強いることができる。米軍の台湾支援への牽制にもなる。中国軍の目が台湾東部に注がれているということは、それだけ中国の台湾侵攻作戦の準備が成熟してきたことを示している。

台湾有事は既に、昨年と今年の中国軍の軍事演習でおおよその展望が示されている。それは「サイバー攻撃による社会機能の麻痺」「台湾の周囲を取り囲むように封鎖」「重要拠点への選択的打撃」を速やかに行い、米日など国際勢力の介入を素早く阻止することだ。

時限爆弾のリミットはいつ?

合理的に考えれば、現在、経済問題など国内の課題を抱えた中国の習近平(シー・チンピン)政権が台湾侵攻に着手する可能性は高くない。中国軍の上陸作戦が間違いなく成功するかは不確実性があり、中国としてはあとしばらく軍のビルドアップに努めたいだろう。だが限定的な軍事攻撃(台湾が実効支配する中国沿岸の無人島など)は、外国の介入の恐れはなくハードルも下がる。長い時間軸では、今後5年はなくても10年では分からない。

さらに、いつまでその「保留」状態が持つのか、確信をもって答えられる人はいない。全ての答えは習国家主席の頭の中にある。習自身ですら、政治的決断のタイミングは分からないだろう。それは、合理的な分析からはロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナへの全面侵攻が予想できなかったのと同じであり、独裁指導者の考える合理性は時に専門家の考える合理性と大きく食い違う。

軍事の問題は10年単位での思考が必要だ。筆者には1つの実感がある。かつて朝日新聞の台北特派員として中台関係を取材していた2010年頃、「中台の軍事バランスは拮抗している」という記事を書いていた。それから15年ほどが経過した今、軍事バランスは大きく崩れた。防空や上陸阻止など個別の作戦で台湾は善戦するかもしれないが、総合力で中国に太刀打ちできない。

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