サイバー空間では、台湾「有事」はすでに始まっていた...日本にも喫緊の課題、「OT」のリスクとは?
これまで産業制御システムはインターネットなど外部とは繋がっていないから攻撃を受けないという「安全神話」があった。ところが、デジタル化が進みIoT機器などが大量に使われるようなっていることで、これまで存在していなかった通信経路やデータの流れが生まれている。そこがサイバー攻撃の入り口になるなど危険があることがわかってきた。
さらに、中国の台頭などによる地域の緊張関係によって、その重要性は再認識されている。産業や社会インフラを攻撃することで、先端技術の知的財産が盗まれてしまう恐れや、妨害工作でインフラや工場が停止してしまう危険性も想定されるからだ。そうなると国家の機能が麻痺するなど大打撃を与えることになる。
先端技術で覇権を狙う中国に狙われる半導体企業
例えば、台湾といえば、半導体の製造では世界でもなくてはならない存在だ。台湾を代表する台湾積体電路製造(TSMC)は、半導体製造部門では世界シェアで53%を超える。高い技術と人材を誇り、それが先端技術で覇権を狙う中国から狙われている。6月末には同社のサプライヤー企業がサイバー攻撃被害を受けているが、同社の関係者によれば、TSMCなど半導体企業も「ITのみならずOTにおけるサイバー攻撃対策も強化を続けている」という。
国際政治に詳しい台北市にある中国文化大学の鄭子真教授は「現在では、半導体分野は台湾が存続するための重要な鍵となっている」と語る。「TSMCのような企業がサイバー攻撃で停止するようなことになれば、台湾のみならず世界中で大混乱を引き起こすことになる」
筆者は台湾でOT対策を提供している企業を訪問した。欧米IT系の多くが拠点を置く台湾信義区の中心地域に本社を置く「TXOne社」だ。同社は、2019年の創業から3年年で産業用の制御セキュリティのグローバルリーダーに成長し、世界28カ国に展開している注目の企業だ。
同社は、リアルタイムで内部ネットワークや重要な保護資産を多層防御で保護する。これまで台湾の大手半導体企業などインフラ事業者へもソリューションを提供してきたこともあって、その実装経験からOT環境に特有のサイバー攻撃対策のノウハウを蓄積している。
TXOne社のテレンス・リュウCEOは、「近年では、国家レベルのハッカーは重要インフラや産業制御領域を狙うようになっています。産業サイバーセキュリティ環境の強化への需要は世界で年々高まっている」と言う。
「制御システムなどのデジタル化でサイバー攻撃などのリスクが高まるのは避けられませんが、そこで安定した運用を維持することを最大の目標としていています。ただ様々な分野でセキュリティソリューションを導入するので、まずその業界や施設、システムごとに幅広いリスクや脅威を徹底的に洗い出し、異常な動きや予期せぬ設定変更を検出し、その動きへの対策を講じています」