最新記事
現地取材

サイバー空間では、台湾「有事」はすでに始まっていた...日本にも喫緊の課題、「OT」のリスクとは?

2023年7月12日(水)18時51分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

これまで産業制御システムはインターネットなど外部とは繋がっていないから攻撃を受けないという「安全神話」があった。ところが、デジタル化が進みIoT機器などが大量に使われるようなっていることで、これまで存在していなかった通信経路やデータの流れが生まれている。そこがサイバー攻撃の入り口になるなど危険があることがわかってきた。

さらに、中国の台頭などによる地域の緊張関係によって、その重要性は再認識されている。産業や社会インフラを攻撃することで、先端技術の知的財産が盗まれてしまう恐れや、妨害工作でインフラや工場が停止してしまう危険性も想定されるからだ。そうなると国家の機能が麻痺するなど大打撃を与えることになる。

先端技術で覇権を狙う中国に狙われる半導体企業

例えば、台湾といえば、半導体の製造では世界でもなくてはならない存在だ。台湾を代表する台湾積体電路製造(TSMC)は、半導体製造部門では世界シェアで53%を超える。高い技術と人材を誇り、それが先端技術で覇権を狙う中国から狙われている。6月末には同社のサプライヤー企業がサイバー攻撃被害を受けているが、同社の関係者によれば、TSMCなど半導体企業も「ITのみならずOTにおけるサイバー攻撃対策も強化を続けている」という。

国際政治に詳しい台北市にある中国文化大学の鄭子真教授は「現在では、半導体分野は台湾が存続するための重要な鍵となっている」と語る。「TSMCのような企業がサイバー攻撃で停止するようなことになれば、台湾のみならず世界中で大混乱を引き起こすことになる」

筆者は台湾でOT対策を提供している企業を訪問した。欧米IT系の多くが拠点を置く台湾信義区の中心地域に本社を置く「TXOne社」だ。同社は、2019年の創業から3年年で産業用の制御セキュリティのグローバルリーダーに成長し、世界28カ国に展開している注目の企業だ。

同社は、リアルタイムで内部ネットワークや重要な保護資産を多層防御で保護する。これまで台湾の大手半導体企業などインフラ事業者へもソリューションを提供してきたこともあって、その実装経験からOT環境に特有のサイバー攻撃対策のノウハウを蓄積している。

TXOne社のテレンス・リュウCEOは、「近年では、国家レベルのハッカーは重要インフラや産業制御領域を狙うようになっています。産業サイバーセキュリティ環境の強化への需要は世界で年々高まっている」と言う。

「制御システムなどのデジタル化でサイバー攻撃などのリスクが高まるのは避けられませんが、そこで安定した運用を維持することを最大の目標としていています。ただ様々な分野でセキュリティソリューションを導入するので、まずその業界や施設、システムごとに幅広いリスクや脅威を徹底的に洗い出し、異常な動きや予期せぬ設定変更を検出し、その動きへの対策を講じています」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中