最新記事
現地取材

サイバー空間では、台湾「有事」はすでに始まっていた...日本にも喫緊の課題、「OT」のリスクとは?

2023年7月12日(水)18時51分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

こうした動向に加えて、台湾では2024年1月に総統選挙と立法委員(国会議員)選挙を控えており、サイバー攻撃そのものが増加する可能性も指摘されている。サイバーセキュリティや台湾情勢にも詳しい慶應義塾大学の土屋大洋教授は、「中国は台湾をサイバー攻撃しているが、政府や民間で防御してもさらに攻撃を重ねてくる。台湾侵攻についても、すでにサイバー攻撃を含めた計画は立てていると見られており、有事に向けたサイバー攻撃も実施していると台湾当局も分析している」と言う。

サイバー空間では台湾での「有事」はすでに始まっているのかも知れない。しかもインフラなどが狙われる可能性があるとなれば、ことは深刻で、日本も他人事ではない。そこで筆者は、実態を知るべく台湾で取材を行った。

台湾では、セキュリティ関係者らに話を聞くことができた。そこで感じたのは、台湾のサイバーセキュリティ対策の意識の高さだ。その理由のひとつには台湾有事の可能性が指摘されていることがある。

トレンドマイクロCEOが語る「理想と現実」

台湾と日本に本社を構えるサイバーセキュリティ企業であるトレンドマイクロのエバ・チェンCEOは、「台湾と中国は平和に共存してきた。両者の関係がお互いの経済に恩恵があることを考えると『危険なバランス』だと言われるが、どちらも戦争を行う選択肢はないはずだと個人的には考えている」と言う。

ただ何か不測の事態が起きる可能性はもちろん排除しておらず、「トレンドマイクロでは、不測の事態が起きても、顧客が少なくとも1年間はそれまでと何も変わらないサービスを継続して受けられるよう経営体制を整えている。また、人材を世界に分散するなどして緊急時にも適切に事業継続ができるよう対策をしている」

台湾の企業関係者などの視点に立てば、中国と良好なビジネスができるのに越したことはないし、有事という最悪の事態は避けたいという意見も耳にした。ただ現実として、サイバー攻撃や、選挙に向けた影響工作などが台湾を襲っていることも事実である。

トレンドマイクロは、もともと台湾出身者が創業した企業だ。現在は日本に本社を置き、世界65カ国で20億ドル規模のビジネスを展開している。台湾にも数多くのエンジニアなどを配置して、コンピューターや通信技術をカバーする「IT(インフォメーション・テクノロジー)」から、産業や社会インフラのための制御技術を指す「OT(オペレーショナル・テクノロジー)」まで幅広いセキュリティ対策を提供する。日本でも、官公庁の4割で同社のセキュリティソリューションが導入されている。

近年、台湾ではインフラ施設や工場など産業制御システム、つまりトレンドマイクロが乗り出しているような「OT」のセキュリティ対策が急務であると認識されている。というのも、「IT」へのサイバーセキュリティは比較的導入が進んでいるが、「OT」に対するサイバー攻撃対策はあまり重要視されてこなかったからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中