ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する
GOLF AS DIPLOMACY
その後、サウジ側は付かず離れずだった中国との協力関係を強化。中国はロシアの天然ガスを格安な価格で購入してロシアのウクライナ侵攻を助け、サウジはアメリカ政府の意向に反して石油の減産に踏み切った。
バイデンはアメリカに逆らった「報い」をサウジアラビアにもたらすと誓ったが、それが目に見える形になることはあるまい。
昔から中東では、アメリカの同盟国は何をしてもいいことになっている。それが現実である以上、アメリカのゴルファーに政府以上の正しい行動を期待するのは不当であり、少なくとも非現実的だと言えよう。
PGAとLIVの合併は、サウジアラビアが進める「スポーツウオッシング」、つまり世界中で人気の高いスポーツに深く関与することを通じて自国のイメージを向上させようとする戦略の一環だ。
同じことは他国もやっているが、その効果には限界があると筆者は考える。有力なサッカーチームやF1レースの開催権、ゴルフツアーへの参入権などは金で買える。だが、そうやって国の知名度を上げれば、その国の不都合な部分も白日の下にさらされることになるだろう。
それに、そもそもサウジアラビアが影響力を行使できるのは、その無尽蔵に見える資金力ゆえだ。しかし、実際には無尽蔵ではない。
いずれあの国の経済が行き詰まり、自国の経済と社会を根本的に変えようとする皇太子の計画が頓挫することがあれば、現在のような影響力はすぐに消えてなくなる。
脱化石燃料の流れは変わらないから、石油や天然ガスの需要は減少する。気候変動のせいで、砂漠での暮らしはますます困難になる。
今、私たちが目にしているのは、サウジアラビアの影響力のピークであって、新たなグローバルパワーの台頭ではないのだろう。
言わせてもらえば、私は外交に関して徹底した現実主義者だ。政治というのは殴り合いの世界であり、そこでは誰もが、倫理や大義よりも自らの利己的な利益を追求しがちだ。
それでいいとは思わないが、別に意外だとは思わない。リアル・ポリティクスの世界では、これでパー(プラスマイナスゼロ)なのである。