最新記事
ゴルフ

ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する

GOLF AS DIPLOMACY

2023年6月28日(水)13時40分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者)

その後、サウジ側は付かず離れずだった中国との協力関係を強化。中国はロシアの天然ガスを格安な価格で購入してロシアのウクライナ侵攻を助け、サウジはアメリカ政府の意向に反して石油の減産に踏み切った。

バイデンはアメリカに逆らった「報い」をサウジアラビアにもたらすと誓ったが、それが目に見える形になることはあるまい。

昔から中東では、アメリカの同盟国は何をしてもいいことになっている。それが現実である以上、アメリカのゴルファーに政府以上の正しい行動を期待するのは不当であり、少なくとも非現実的だと言えよう。

PGAとLIVの合併は、サウジアラビアが進める「スポーツウオッシング」、つまり世界中で人気の高いスポーツに深く関与することを通じて自国のイメージを向上させようとする戦略の一環だ。

同じことは他国もやっているが、その効果には限界があると筆者は考える。有力なサッカーチームやF1レースの開催権、ゴルフツアーへの参入権などは金で買える。だが、そうやって国の知名度を上げれば、その国の不都合な部分も白日の下にさらされることになるだろう。

それに、そもそもサウジアラビアが影響力を行使できるのは、その無尽蔵に見える資金力ゆえだ。しかし、実際には無尽蔵ではない。

いずれあの国の経済が行き詰まり、自国の経済と社会を根本的に変えようとする皇太子の計画が頓挫することがあれば、現在のような影響力はすぐに消えてなくなる。

脱化石燃料の流れは変わらないから、石油や天然ガスの需要は減少する。気候変動のせいで、砂漠での暮らしはますます困難になる。

今、私たちが目にしているのは、サウジアラビアの影響力のピークであって、新たなグローバルパワーの台頭ではないのだろう。

言わせてもらえば、私は外交に関して徹底した現実主義者だ。政治というのは殴り合いの世界であり、そこでは誰もが、倫理や大義よりも自らの利己的な利益を追求しがちだ。

それでいいとは思わないが、別に意外だとは思わない。リアル・ポリティクスの世界では、これでパー(プラスマイナスゼロ)なのである。

From Foreign Policy Magazine

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中