ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する
GOLF AS DIPLOMACY
それでも現状が維持されるのは、現行体制から特権を享受している大国が既得権益を失うまいと改革に抵抗する一方、改革を最も望む新興諸国も新たな体制の具体像について合意を見いだせずにいるからだ。
しかし、新参者が当該スポーツの伝統を大きく変えた例もある。例えばNBA(全米プロバスケットボール協会)は新興リーグを吸収するに当たり、スリーポイントシュートという革新的なアイデアを採用した。NFLとAFLの合併も、今や世界中が注目するスーパーボウルの創設につながった。
国際団体でも同じだ。新たに加わったメンバーは自分たちの利害を反映させるために、組織の形を変えようと努力する。だからゴルフの世界でも、向こう数年で何かが大きく変わる可能性は十分にある。
もちろん、今の時代にはゴルフの運命よりも心配すべき問題が山ほどある。しかし、PGAとLIVの野合が世界政治の不都合な真実を想起させたのも事実だ。
例えば、最後に勝つのはソフトパワーではなくハードパワーだという事実。つまり「この世の沙汰は金次第」なのだ。
PGAツアーのモナハン会長は従来、LIVへの非難を繰り返し、LIVに参加することには倫理的な問題があるとまで言ってきたが、一転して方針を転換した。無論、彼もサウジアラビアの流儀を完全に容認したのではあるまい。
だが大金を前に、これならLIVと組むのが得策と判断したのだろう。一貫してLIVに厳しかったマキロイでさえ、「この現実を受け入れる」と発言している。
だが、モナハンやマキロイを責めることはできない。アメリカ政府の先例があるからだ。
サウジの影響力は無尽蔵か
ジョー・バイデン米大統領はかつて、サウジアラビアの実質的指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子を非難し、あの国を世界の「のけ者」にしてやるとまで言った。アントニー・ブリンケン国務長官も就任時に、「人権は米国外交の中心」だと語っていた。
しかし、こうした理想主義的言説は厳しい現実に勝てなかった。アメリカはインフレ抑制のために、サウジからの原油供給を増やしてもらう必要があった。だから昨年7月、バイデンは皇太子と笑顔で「グータッチ」をすることになった。