ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する
GOLF AS DIPLOMACY
意表を突かれたのは事実だ。何しろこの1年、LIVとPGAツアーは非難の応酬を繰り返してきた。LIVに参加するブルックス・ケプカ(アメリカ)が5月の全米プロゴルフ選手権を制するという快挙はあったが、まだまだPGAツアーの足元にも及ばなかった。
そもそも一流ゴルファーの大半は、高額賞金という餌をぶら下げられてもLIVに移籍していない。一貫してLIVに批判的なローリー・マキロイのような大物プロもいる。大会の入場者数、企業スポンサー、テレビ中継でも、PGAツアーに大きく水をあけられている。
「勝てないなら買ってしまえ」
だがPGAツアーの後塵を拝することは、石油王国サウジアラビアのプライドが許さない。それで奥の手を出した。ライバルの買収である。
要するに「勝てない相手は買ってしまえ」だ。PGAツアーを傘下に収めれば、その長い歴史と伝統も手に入る。PGAツアーとしても、資金力抜群のライバルとの競争で消耗するリスクを回避できる。
ほかの競技でも、大抵の新興団体はそうやって生き残りを図ってきた。AFL(アメリカン・フットボール・リーグ)は伝統あるNFL(全米プロフットボールリーグ)に挑んだが力及ばず、70年にNFLと合併して現在に至る。
スポーツの世界だけではない。国際政治の舞台でも、新興勢力が長い歴史と権威を持つ組織や制度に取って代わるのは難しい。既存の組織にはなじみがあるし、善くも悪くも利害関係者が多い。対する新興勢力には信用も実績もない。
国際関係論の専門家がよく言うように、そもそも制度や組織には「粘着性」がある。だから中国やロシアがIMFや世界銀行に取って代わる機関を創出しても、なかなかうまくいかない。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のような連合を結成しても実態は乏しく、象徴的な存在にとどまる。
同様に、国連安全保障理事会のような伝統的機関の改革は一向に進まない。現在の安保理が時代にそぐわず、機能不全に陥っているのは明らかだ。