最新記事
ゴルフ

ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する

GOLF AS DIPLOMACY

2023年6月28日(水)13時40分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者)
LIVゴルフインビテーショナル

米首都ワシントンのゴルフ場で開催されたLIVゴルフインビテーショナル(2023年5月26日) ROB CARR/GETTY IMAGES

<米PGAツアーとサウジ政府資本LIVが電撃「合併」合意。プロゴルフ界の和解から外交や政治が学べることとは?>

米PGAツアーの君臨するゴルフの世界に、サウジアラビア政府系ファンドの支援するLIVゴルフが挑戦状をたたきつけたのは2021年10月。

22年夏には独自ルール・高額賞金のツアーを立ち上げ、さあ有力選手の奪い合いが始まるぞ──と思っていたら、今年6月6日、一転して両者の「合併」が発表された。ドバイ(アラブ首長国連邦)系ファンド傘下の欧州ツアーも加わるという。

法的な手続きをクリアできれば新会社が誕生し、その取締役会議長にはサウジアラビアの政府系ファンドPIFを率いるヤシル・アル・ルマイヤンが就任し、CEOにはPGAツアー会長のジェイ・モナハンが指名される見通しだ。

筆者は昨年来、新興のLIVが由緒あるPGAの牙城を崩すのは難しいと指摘してきた。スポーツの世界で、新興団体が成功した例はほとんどない(ワールド・フットボール・リーグしかり、北米サッカーリーグしかり)。既存の団体に長い歴史があれば、なおさらだ。

スポーツの世界では歴史と伝説がものをいう。特にゴルフはそうだ。しかしLIVには歴史がない。

「聖地」セントアンドリュース(スコットランド)で開かれる全英オープンやオーガスタ・ナショナル(米ジョージア州)を舞台とするマスターズのように特別な大会もなければ、時を超えて語り継がれる名勝負もない。

ジーン・サラゼンがアルバトロスを決めた1935年のマスターズ、コーリー・ペイビンが4番ウッドで最終日最終ホールのグリーンを捉えた95年の全米オープン、タイガー・ウッズが2位に15打差で圧勝した2000年の全米オープン。ファンが愛するのは、そういう「語り草」だ。

超の付くスーパーショット、まさかまさかの大崩れ、奇跡の復活劇。そういう胸の高鳴る逸話の蓄積が、新興団体にはない。

高額賞金で現役の有力選手は招聘できても、長い歴史は金では買えない。筆者は、潤沢な石油マネーに支えられたLIVゴルフが失速するとは考えなかったが、簡単にPGAツアーに取って代われるとも思っていなかった。

ところが両者は競争よりも共存を選んだ。意外だった。筆者の読みは間違っていたのだろうか? いや、そうは思わない。

展覧会
奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」   鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中