ゴルフ・PGAツアーとサウジ系ファンドの「政略結婚」...スポーツも政治も「金満サウジ」に迎合する
GOLF AS DIPLOMACY
米首都ワシントンのゴルフ場で開催されたLIVゴルフインビテーショナル(2023年5月26日) ROB CARR/GETTY IMAGES
<米PGAツアーとサウジ政府資本LIVが電撃「合併」合意。プロゴルフ界の和解から外交や政治が学べることとは?>
米PGAツアーの君臨するゴルフの世界に、サウジアラビア政府系ファンドの支援するLIVゴルフが挑戦状をたたきつけたのは2021年10月。
22年夏には独自ルール・高額賞金のツアーを立ち上げ、さあ有力選手の奪い合いが始まるぞ──と思っていたら、今年6月6日、一転して両者の「合併」が発表された。ドバイ(アラブ首長国連邦)系ファンド傘下の欧州ツアーも加わるという。
法的な手続きをクリアできれば新会社が誕生し、その取締役会議長にはサウジアラビアの政府系ファンドPIFを率いるヤシル・アル・ルマイヤンが就任し、CEOにはPGAツアー会長のジェイ・モナハンが指名される見通しだ。
筆者は昨年来、新興のLIVが由緒あるPGAの牙城を崩すのは難しいと指摘してきた。スポーツの世界で、新興団体が成功した例はほとんどない(ワールド・フットボール・リーグしかり、北米サッカーリーグしかり)。既存の団体に長い歴史があれば、なおさらだ。
スポーツの世界では歴史と伝説がものをいう。特にゴルフはそうだ。しかしLIVには歴史がない。
「聖地」セントアンドリュース(スコットランド)で開かれる全英オープンやオーガスタ・ナショナル(米ジョージア州)を舞台とするマスターズのように特別な大会もなければ、時を超えて語り継がれる名勝負もない。
ジーン・サラゼンがアルバトロスを決めた1935年のマスターズ、コーリー・ペイビンが4番ウッドで最終日最終ホールのグリーンを捉えた95年の全米オープン、タイガー・ウッズが2位に15打差で圧勝した2000年の全米オープン。ファンが愛するのは、そういう「語り草」だ。
超の付くスーパーショット、まさかまさかの大崩れ、奇跡の復活劇。そういう胸の高鳴る逸話の蓄積が、新興団体にはない。
高額賞金で現役の有力選手は招聘できても、長い歴史は金では買えない。筆者は、潤沢な石油マネーに支えられたLIVゴルフが失速するとは考えなかったが、簡単にPGAツアーに取って代われるとも思っていなかった。
ところが両者は競争よりも共存を選んだ。意外だった。筆者の読みは間違っていたのだろうか? いや、そうは思わない。