最新記事
外交

米国務長官を「格下あつかい」...異様なまでの「外交非礼」を見せた習近平に、アメリカが低姿勢を貫く理由

A FROSTY RECEPTION

2023年6月28日(水)19時26分
ロビー・グラマー、クリスティーナ・ルー(いずれもフォーリン・ポリシー誌記者)

一方、トランプ政権の外交政策を仕切った元官僚らは、ブリンケン訪中は中国に米高官をおとしめる楽しみを与えただけだと切って捨てる。

「こちらが適正なレベル、適正なやり方で辛抱強く働きかければ、違った反応が返ってくるはずだ──旧式の対中アプローチにはそんな思い込みがある」と、トランプ政権で国連特使を務めたケリー・カリーは言う。「だが、こちらから話し合いを持とうと執拗に働きかければ、彼らは話し合いが自分たちよりも米側にとって重要なのだと解釈し、それを利用して優位に立とうとする」

外交NPO・バンデンバーグ連合のキャリー・フィリッペティ代表は「敵対勢力との対話の必要性は多くの人が認める」と断った上で、「問題は米側の熱心な働きかけで訪中が実現したことだ」と言う。「それでは最初から向こうを立てて、低姿勢で話し合いを始めることになる」

ブリンケンが持ち帰った具体的な成果

ともあれ外交交渉が圧倒的な勝利や衝撃的な敗北に終わることはめったにない。ブリンケンの訪中も例外ではない。米中関係が最悪レベルまで冷え込んでいる現状でも、ブリンケンはわずかながら具体的な成果を持ち帰った。アメリカに新たなオピオイド危機をもたらしている違法ドラッグの流入を防ぐため米中合同の作業部会を設置すること、人的つながりや学術交流を拡大し、米中間の直行便を増便することなどだ。

しかし米中関係を揺るがしている最も重要な問題に関しては、はかばかしい進展はなかった。例えば中国在住アメリカ人の恣意的な拘束、ウクライナ戦争で中国がロシア寄りの姿勢を見せていること。こうした問題を中国に公式に認めさせ、是正を迫ることはできなかった。

それ以上に問題なのは、軍同士の対話チャンネルの再開が実現しなかったことだ。偶発的な衝突が全面的な対決にエスカレートする事態を防ぐには、このホットラインの再開が不可欠だ。にもかかわらず中国側はブリンケンの再開提案をはねつけた。

5月末には南シナ海上空を飛んでいた米軍の偵察機に中国軍の戦闘機が「攻撃的飛行」を行ったというニュースが伝えられ、さらに最近では中国がキューバに軍事訓練施設と偵察拠点を設ける計画を進めているとも報じられており、米中激突のリスクはますます現実味を帯びている。

この状況で「中国が軍同士の対話チャンネル再開を渋ったことは残念でもあり心配でもある」と、米シンクタンク・ジャーマン・マーシャルファンドの中国専門家ボニー・グレーザーはツイッターで警告した。「これでは米中関係の安定化は可能なのかと疑問を抱かざるを得ない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売 本体価格4

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中