米国務長官を「格下あつかい」...異様なまでの「外交非礼」を見せた習近平に、アメリカが低姿勢を貫く理由
A FROSTY RECEPTION
一方、トランプ政権の外交政策を仕切った元官僚らは、ブリンケン訪中は中国に米高官をおとしめる楽しみを与えただけだと切って捨てる。
「こちらが適正なレベル、適正なやり方で辛抱強く働きかければ、違った反応が返ってくるはずだ──旧式の対中アプローチにはそんな思い込みがある」と、トランプ政権で国連特使を務めたケリー・カリーは言う。「だが、こちらから話し合いを持とうと執拗に働きかければ、彼らは話し合いが自分たちよりも米側にとって重要なのだと解釈し、それを利用して優位に立とうとする」
外交NPO・バンデンバーグ連合のキャリー・フィリッペティ代表は「敵対勢力との対話の必要性は多くの人が認める」と断った上で、「問題は米側の熱心な働きかけで訪中が実現したことだ」と言う。「それでは最初から向こうを立てて、低姿勢で話し合いを始めることになる」
ブリンケンが持ち帰った具体的な成果
ともあれ外交交渉が圧倒的な勝利や衝撃的な敗北に終わることはめったにない。ブリンケンの訪中も例外ではない。米中関係が最悪レベルまで冷え込んでいる現状でも、ブリンケンはわずかながら具体的な成果を持ち帰った。アメリカに新たなオピオイド危機をもたらしている違法ドラッグの流入を防ぐため米中合同の作業部会を設置すること、人的つながりや学術交流を拡大し、米中間の直行便を増便することなどだ。
しかし米中関係を揺るがしている最も重要な問題に関しては、はかばかしい進展はなかった。例えば中国在住アメリカ人の恣意的な拘束、ウクライナ戦争で中国がロシア寄りの姿勢を見せていること。こうした問題を中国に公式に認めさせ、是正を迫ることはできなかった。
それ以上に問題なのは、軍同士の対話チャンネルの再開が実現しなかったことだ。偶発的な衝突が全面的な対決にエスカレートする事態を防ぐには、このホットラインの再開が不可欠だ。にもかかわらず中国側はブリンケンの再開提案をはねつけた。
5月末には南シナ海上空を飛んでいた米軍の偵察機に中国軍の戦闘機が「攻撃的飛行」を行ったというニュースが伝えられ、さらに最近では中国がキューバに軍事訓練施設と偵察拠点を設ける計画を進めているとも報じられており、米中激突のリスクはますます現実味を帯びている。
この状況で「中国が軍同士の対話チャンネル再開を渋ったことは残念でもあり心配でもある」と、米シンクタンク・ジャーマン・マーシャルファンドの中国専門家ボニー・グレーザーはツイッターで警告した。「これでは米中関係の安定化は可能なのかと疑問を抱かざるを得ない」