エロくて下品で豪快な「政界のドン」ベルルスコーニが逝く
Death of the “Teflon Don”
それ以前にもビル・クリントン元米大統領が不倫疑惑で窮地に陥った際、ベルルスコーニは頼まれもしないのにクリントンの応援団を買って出た。
とはいえベルルスコーニの一番の親友であり、最大の頭痛の種ともなったのはロシアのウラジーミル・プーチン大統領だ。大衆紙が2人の関係を大きく取り上げたのは08年。ネタ元はイタリア人コールガールが書いた暴露本だった。
彼女はローマのベルルスコーニ邸にある四柱式ベッドで彼とセックスしたと告白。そのとき彼が「これはプーチンのベッドだ」と言ったという。絶倫自慢の男が同好の士に「せいぜい楽しみたまえ」と愛用のベッドを贈ったのだろうと、彼女は解釈した。
そのプーチンがウクライナ侵攻を開始すると、ベルルスコーニはまずい立場に置かれた。当初はプーチン批判を控え、「欧州の首脳はプーチンの要求をのむようウクライナを説得して和平を実現すべきだ」などと述べていた。
侵攻後1カ月余りたってようやくプーチンの過ちを認め、「失望し、悲しんでいる」と発言した。
実業界から政界入りし、短期間に政権を握った点で、ベルルスコーニはよくドナルド・トランプ前米大統領に例えられるが、本人はそれを非常に嫌がっていた。
トランプも「テフロンのドン」と呼ばれ、政治スタイルも似ているが、ベルルスコーニはよく勉強していて、地政学的な知識はなかなかのものだった。
本誌のパリ支局長・中東総局長を務めたクリストファー・ディッキーと筆者がインタビューを行った際、その場には彼を補佐するために側近たちが何人も控えていた。
だが意外や意外、彼は中東政治の事情に通じ、欧州各国の政治状況については私たちに手ほどきするほど。その間、出番のない側近たちは黙々とお茶を飲み軽食を食べていた。